親知らず

文字数 297文字

最後の親知らずが生えてきた。右下の奥。ほかの三本の親知らずは綺麗に生えそろったというのに、最後の一本だけが斜めに向かって生えてきた。おかげで痛みが酷かった。上下が揃っていないといけないので、右上と左上の二本を抜くことになった。食卓で不自由さに憤る私を、やや笑いながら両親は諫めた。歯科医からの問いかけに生返事で「はい」と答えたせいで手元にやってきた二本の歯を私は綺麗に洗い、ふ、と思い立ってそのふたつをサボテンの鉢植えに植えてみた。当然何の変化もあるはずはなく、やがて歯のことは忘れた。両親の葬式のしばらく後にサボテンが枯れ、この戯れのことを思い出したのだが、鉢のどこからも歯は出てこなかった。
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