枠外

文字数 297文字

 呑み屋に現れた友人が一瞬、別人に見えた。眼鏡のせいだった。「アイメイクを楽しむにはコンタクトレンズ一択」が彼女の決まり文句だ。
「眼鏡珍しいね」
「コンタクトの箱を踏んで全部ダメにした。最悪」
「似合ってると思うけど」
 彼女は席に座り、眼鏡を外して私に差し出した。
「かけて右上を見て」
 困惑しつつも私は自分の眼鏡を外し、それに替えた。レンズの度がかなり低い。裸眼よりマシな程度の視界はどこを見てもぼやけている。そう言うと彼女はふうん、とこの話を流した。
 それからどうも視界の右上に何かが常駐している。が、近視が強すぎてレンズの枠外のそれが何かは判らない。だから彼女にこのことを話すべきか迷っている。
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