第7話 BJが楽しみ
文字数 759文字
実際の人物、団体とは一切関係ございません。
夜と朝の狭間を、黒塗りのキャデラックが走っていく。大通りにはほとんど車がなく、町は朝を静かに迎えいれようとしている。
大きな瞳をきらめかせて話す青年の耳に百合のカフスがはめられている。車内には黒い衣服をまとった大人が3人(うちひとりは運転手)と白いチェスターコートに白髪姿の男、そして先ほどから話に夢中になっているワイシャツ姿の小柄な青年が乗っている。
と、呻きながら頭を押さえるのは助手席に座っている黒服の男。襟足を伸ばして結んだ髪を肩に垂らし、顔の半分ほどが前髪で隠れている。
あらわになっている右耳にはシルバーのチェーンカフスが雫型の赤い石とともに揺れている。男は黒だらけの布を奇抜とおしゃれのちょうど真ん中ぐらいをいい塩梅に着こなしているが、端正な顔立ちが二日酔いからくる頭痛と胸やけで歪んでいた。
運転席のスーツ姿の男が声をかけた。
こちらは一見なんの変哲もないようでいて醸し出される爬虫類のようなしっとりとした空気が常人を近づきがたく感じさせる。運転手はパールのついたイヤーカフスをつけている。
助手席の男の恨みがましいつぶやきは、後部座席へと向けられていた。
最後尾で横たわる長髪の男はすーすーと寝息を立てている。こちらも一風変わった黒服姿である。左目に眼帯をしているようだ。座席を向いて横たわったままの右耳に青い石のついたカフスが、ちかりと光った。
助手席の後ろに座る男の子の弾むような会話を片手でとめ、白髪の男が運転手に告げた。
運転手は交差点を左折し、細い道を走っていく。
(つづく)