第3話

文字数 1,217文字

擬似恋ステ二日目が始まった。
昨日男子ロッジに行ったことが田尋さんにバレて、注意された。
今日はみんなの自然の家に近い鍾乳洞に行くとのことで、いよいよ旅行らしくなってきた。
久礼奈は英斗さんの脇をキープしている。
さみこはかどっちについて回られるので、二人で行動することになった。
ふっくんは一年だし思い切ったことができないようで、有沙加はなんとなく彼と話をする。
彼の想い人の話などしていると、ながれくんも合流してきた。久礼奈の猛攻がすごくて逃げてきたと言う。
三人で鍾乳洞を回っていると、ながれくんがふいに話し始めた。
「有沙加は学校でいい人いないの?」
「うーん、いるかもしれないけどできないというか。うち一応進学校なんだけど、勉強の競争が激しくて。私も休み時間に単語帳開いたりするからそういうキャラじゃないというか。恋愛することに負い目を感じるんだよね」
恋愛はこの先いくらでもできるから、今は勉強に集中しなさいと言われるけど…。
「ふうん。まあ確かにそうかもしれないけど、恋するくらいいいんじゃない?
犯罪とか人を傷つけること以外なら、自分のことは何したっていいと思うけどな。
特に有沙加は勉強頑張ってるみたいだし、恋愛に逃げようとしてるわけじゃないんだからさ」
「ふうん、そうかなぁ」
考えもしないことだった。
ながれくんはやっぱりすごいな。
自分の考えを持っている。
ながれくんは川というより、風みたいだ。
私の心の淀みをさらってくれる。
ふと、彼を好きだという幼なじみのことを思い出した。
彼女はそんな彼を好きでたまらず、臆してしまうのではないかと有沙加は思った。
幼なじみはあまり話さず、ながれくんと一緒にいても従順というか言いなりらしい。
そんなところもながれくんは嫌だと言うのだが、有沙加はその気持ちがちょっとわかるような気がした。

晩ご飯はみんなでバーベキューをした。
男子は残った野菜で焼きそばを作ったりしている。
ながれくんの焼きそばを食べていると、本人がそばに来てうまい?と聞いてきた。
「うん、すごくおいしい。不思議だね、家で食べるよりずっとおいしく感じる」
「こういう風に食べるとうまいよな。俺も家でバーベキューしたりするけど、やっぱりいいよ」
どきんとした。
バーベキューなら、ご近所さんともするのだろうか。
「幼なじみともするの?」
「栞?うんそうだな、親同士は仲いいし」
栞さんっていうんだ。それに親同士は仲いいんだ…。
だんだん焼きそばの味がわからなくなってきた。
名前を知ってから、有沙加の中で栞さんという存在が急速に実体を伴ってきた。
それは同時に、自分の気持ちを意識してきた現れでもあった。

明日から平日なので、みんな自分の家に帰っていった。擬似恋ステは一旦お休みである。
その晩、有沙加はなかなか寝られず、ながれくんは本当に栞さんのことを嫌っているのだろうかと疑って悶々とした。
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