第5話

文字数 1,100文字

擬似恋ステ四日目の早朝、洗面所で久礼奈と英斗がかち合った。
「今日、赤チケ出たらしいよ」
「そうなんだ…」
英斗はタオルで顔を拭った。
「久礼奈、学校行ってないんだろ?明日からはちゃんと行けよ」
「はぁ?なんであんたにそんなこと」
「いじめられたり、ひどい思いしてないなら行きなよ。学校って楽しむ所じゃなくて、社会に出るための訓練所らしいよ。嫌なことを経験することでありがたみがわかったり、前向きに頑張れるような気持ちのつけ方が身につくって…」
「あんた、有沙加に好きになっちゃだめって言ったんだって?昨日聞いたよ」
英斗はまた顔を洗い出した。
「だめじゃない、あの手の子は言われたこと真に受けちゃうんだから」
きゅきゅっと蛇口が勢いよく閉まった。
「俺、才女タイプって憧れるんだよなー」
「最初から素直にそう言えばよかったのに。自分から動かないと叶わないわよ」
「そうかなぁ」
でもさ、と英斗はタオルに顔を埋めた。
向こうにも好きになってほしかったんだよ。

別の場所では、田尋さんとかどっちが一緒にいた。
「ねえねえ、田尋さんはどうして今回みたいな企画をしたの?」
「ううん?そうだねぇ、僕が若い頃にもっと恋愛したかったと思うからかなぁ」
恋ステみたいなきっかけがあればいいなと思ったんだよ、と田尋さんは話し始めた。
「僕はね、恋愛っていうのはすごくエネルギーのいる行為だと思っているんだ。傷つくのを承知でぶつかっていったり、ボロボロになってもまた立ち上がらないといけなかったり。若い時に恋愛するのって大人からいい顔をされないこともあるけど、節度を保って恋愛すれば、学ぶことも多いと思うんだよね。僕が説教ぶれる若い人への、傷つくことを恐れずに恋愛に立ち向かってほしいっていうメッセージなんだ」
それで企画したんだよ、と田尋さんは笑った。
「ふうん。じゃあ、自己満ってことでいい?」
「まあそうだね。でね、僕は若い人に恋愛してもらって結婚させて、少子化に歯止めをかけたいとも思ってるんだよ。どうだい、立派だろう?」
田尋さんはふんぞり返ったが、かどっちからは、え、田尋さん、出馬するの?俺たちの選挙権が目当て?と冷めた意見を言われてしまった。

赤チケを出した有沙加は、大きく深呼吸した。
目の前には、ながれくんがいる。
この人は、私の生涯のパートナーにはならないかもしれない。
でも、先のことはわからないけど、今この瞬間の気持ちを大事にしたい。
私はこの人と一緒に恋愛したいのだ。
私が一番好きな、この人と。
勇気を出して、一歩を踏み出そう。
「ながれくん、好きです。私と付き合ってください」

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