5章 第2話 決戦前

文字数 3,014文字

 深紅の秩序の砦を訪問して数日。
 星辰たち三人は砦の一室で連日、戦闘訓練を受けさせられていた。
 ほんの数日でも訓練を受けさせてやるユーラーの意志である。
 そこのニーナもいて、そのため厳密には四人である。
 その日訓練を始めるとすぐに、ユーラーの使いの女性が四人を訪ねて来た。

「頭領からもう今日は訓練は止めて、すぐ休めとのことです」
 女性が訓練中の四人を集めるとそう言った。

「え? 今始めたばかりですけど……」
 星辰が少し驚いた様に女性に聞いた。

「はい。今日は休めとの事です。これは命令だとも」

「そう。分かりました。」
 そう言って、星辰は女性に頭を下げた。

「では」
 そうして女性は踵を返して歩き始めた部屋を出て言った。

「多分、明日決行だな」
 ルベルが女性の背中を見ながら言った。

「明日、アルゴルの塔に攻めるって事?」

「だろうな。休んで疲れを溜めない様にしておけってことだ」

「そうか。ニーナは何か聞いてるの?」

「いえ、私は何も……」
 星辰の質問にニーナは首を振った。

「決行を知らせないのは少しでも、不意を突きたいんだろ?」
 アクイラが話に入ってきた。

「こっちが戦いを仕掛けようとしてるのは、向こうにバレてるってこと?」
 星辰がアクイラに聞いた。

「ああ、武器も集めて、士気も高いしな。アルゴルも準備していると考えるべきだ」
 アクイラに変わってルベルが星辰に説明する。

「ルベルはアクイラがいまさらスパイとか言わないよね?」
 星辰がルベルを見た。

「ふん。それについては、この砦に俺達が来る前から別のスパイがいるだろ。アルゴルも、こんな砦を見て手をこまねいている間抜けではあるまい」

「それもそうか」

「おい、いつまでアタシは『その女』だ?」
 するとアクイラがルベルに因縁をつけてきた。ルベルはアクイラに対し、まだ『女』呼びなのだ。

「知るか」

「ああ?」
 アクイラが額に血管を浮き出しながらルベルに近づく。

「待ってください。もう、もっと仲良くして」
 ニーナが二人を止めた。

「ふん」
 アクイラとルベルの二人は双方、明後日の方向を向いた。

「もう、ルベルって結構子供だよね」
 星辰が呆れた様に言った。

「お前に言われたくない!」
 ルベルは星辰に向かって怒鳴った。

「それだと、向こうも準備万端かな?」
 星辰はルベルを無視して話を変えた。

(この野郎!)
 ルベルは星辰をにらんだが、星辰は気にしてない。

「頭領はどこ吹く風ですね」

「そりゃあれだ。攻める攻めると見せると緊張させてるじゃあねえか?」
 アクイラ、ニーナもルベルを無視して話を進めた。

「でも、ずっと緊張すると疲れるよね?」

「そうだ。攻めると見せて、攻めてこないとその内その状況になれてダレてくる」

「ユーラーさんは、その瞬間を狙ってるのかな?」

「そうかもな。ま、考えてもしゃあねえか。アタシは部屋で休ませてもらうぜ」
 アクイラはそう言うと部屋の出口まで歩き始めた。

「あ、アクイラ待って。お二人もお休みください」
 ニーナは二人に頭を下げると、アクイラを追った。

「じゃあ、僕も休もう」
 星辰も部屋の出口まで歩き始める。
 だが、突然ルベルに頭に拳骨を食らった。

「なにするんだよ! ルベル」
 星辰がかがんで頭を押さえながらルベルに抗議する

「何かムカつくからだ」

「そんな無茶な……」

「うるさい!」
 ルベルはそう言って、怒って部屋を出て行った。

「滅茶苦茶だ……。僕、何か悪い事したかな?」

 次の日の昼。
 星辰、アクイラ、ルベル、ニーナの四人はユーラーに呼ばれた。場所はユーラーと初めて対面した部屋である。

「もう分かっていると思うが、今日アルゴルの塔を攻める」

「はい」
 星辰がユーラーの言葉に返事をした。

「いい返事だ」
 星辰の返事にユーラーは満足そうに答えた。

「わざわざ教えてくれるとは意外だね」

「一応客人だからね。あと作戦を伝える」

「いいのかい?」

「ここまできたらかまわん」
 アクイラの言葉にユーラーは言い切った。

「これから我々は全軍飛空艇に乗ってアルゴルの塔を攻める」

「空中から攻めるのですが?」
 ルベルがユーラーに質問した。

「いや、塔にはフィールド、いわゆるバリアーが張ってある。空中からの攻撃は残念ながら無理だ。塔の近くまで近寄って、陸から堂々と塔の入り口を攻める」
 
「……」

「かなり前から戦争を仕掛けると言っておいて、攻めないもんだから連中攻めて来ないと飲んでかかってる」

(やっぱり狙ってたんだ)
 星辰が少し感心した様に聞いている。

「それと、今から星全体に強力なジャミングを出す」

「ジャミング?」
 星辰がユーラーの言葉に反応する。

「電波障害だ。通信されて他の星から援軍が来ないようにね。奴らジャミングの対策をしていない。なめられたもんだよ。だからこそ、隙がつけるんだがね」

「それだとクスカに連絡されないってことですよね?」

「そうだ。ジャミングしてる時はドロースの奴をぶちのめしても、映像や画像といった証拠は残らないよ。泳がせてた向こうのスパイも全員身柄を拘束してあるしね。ドロースをぶちのめした後は、適当にごまかしておきな」
 星辰の質問に答えたユーラーはアクイラをチラッと見た。

「な、スパイを全員拘束している」
 ルベルがユーラーの言葉に驚きの声を上げる。

「へ、上等だ」
 アクイラが少し嬉しそうにニヤッと笑った。

「おまえらの役目だが、塔で待ち構えている『サングイストライアド』の三人の相手をしてもらう」

「サングイストライアド?」

「聞いたことがある。確か三人兄弟の傭兵だ」
 星辰の疑問にルベルが答える。

「そうドロースが雇っているサイボーグの傭兵だ」

「サイボーグ……。本当にSFの物語みたい……」

「物語ではなく現実だ」
 星辰のセリフにルベルが反応する。

「ルベルが知ってる程度には有名な奴らさ。塔を攻めたらそいつらが出てくるだろう。お前らはそいつらを足止めしろ」

「ちょうど三対三だね」
 星辰がアクイラとルベルを交互に見て言った。

「アクイラの嬢ちゃんにはニーナを見張りにつけてる。実質、三対四さ。それでも若いお前らじゃ、互角かどうかってところさ。足止めしてもらえれば御の字だ」

「いえ、三人とも捕えますよ」

「いう様じゃないか? え、ルベル」

「銀河警察ですから」
 ルベルはここは毅然として答えた。

「ふん、上等だ。だが、欲を出すんじゃないよ」

「分かってます」

「よし。あとは飛空艇に乗りな。塔には日が暮れるころに襲撃する。連絡は信号弾を空に撃て。やり方は分かるね?」

「大丈夫です」
 星辰がユーラーに見た。他のメンバーもうなずく。

「よし、行きな」
 星辰の言葉を聞いたユーラーは、そこで今回の話を打ち切った。

「はい」
 星辰が返事すると四人は踵を返した。部屋の入口へと歩いていく。

「おい」
 四人が後ろを振り向くと、ユーラーは声をかけた。

「はい?」
 四人は再度、ユーラーの方を向いた。

「死ぬんじゃないよ。まあ、坊ちゃんだけはアルゴルの連中も殺しはしないだろうがね。ただ、物の弾みで死ぬことだってある。向こうも気が立ってるだろうからね」

「お気遣いありがとうございます。気を付けます」
 そう言って、星辰がペコリとユーラーに頭を下げた。
 そして、再度部屋の入口へと向かった。
 他の三人も同じく入口へと歩いていく。

「……やれやれ。私も年かね」
 部屋の扉が閉まって四人が退出した後、ユーラーはなぜかこみ上げるものがあったのか、独り言をつぶやいた。

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