4章 第6話 おびえるルベル

文字数 2,567文字

「なんだと? 宇宙海賊のユーラ―が銀河警察の警察官だったとは初耳だな」
 これには、アクイラが驚いた様に言った。

「ああ、だが間違いない」

「先生とロカ警視と同僚だった……。だから、ルベルはその人を知ってたんだね?」
 星辰がルベルに聞く。

「まあな。ただ、子供の頃に一度だけ会ったきりだ。最後に会ったのは、五歳前後だったか……」

「そんな前に一回あっただけなのに、随分よく覚えている様いるんだな?」
 今度は、アクイラがルベルに聞いた。

「う、うむ……。あれは母さんが亡くなったしばらく経った後だったかな……」
 ルベルは相変わらず歯切れが悪かった。

「だが、知り合いなら好都合だ。うまくすれば会えるくらい出来るかも知れねえな。正直、会えずに門前払いの可能性もあったしな」
 そんな、ルベルをよそにアクイラが話を進めた。

「そうだね」
 星辰が同意した。

「……会いに行くのか?」
 なんだか、ルベルは気が進まない様だ。

「今のことろ他に手はないだろ。嫌なのか?」
 アクイラが何かを悟った様に、少しいやらしい笑顔で言った。

「そ、そんなことはない」
 ルベルは明らかに動揺していた。

(なんだか、めっちゃ動揺してる……)
 そのルベルの様子に星辰も多少驚いた。付き合いは短いが、意外な素顔だった。

「ふーん。じゃあ、決まりだ」
 アクイラは、まるで気が付いてない風に話を進めていく。

(これは偶然か? いや、あのラートルとか言う女め俺達を意図的に、この星に飛ばしたのか? しかし、何のために?)
 ルベルの頭に様々な疑問が湧いてきたが、答えはでない。

「よし、まずは深紅の秩序の砦がある。そこまでいくぞ。こっちだ」
 そう言うとアクイラが歩き始めた。

「お前が仕切るな!」
 ルベルは機嫌が悪い感じでアクイラを怒鳴る。

「へ」
 アクイラはどこ吹く風で、ルベルを無視して歩いていく。

「そうは言っても、他に案がないなら行くしかないよ」
 星辰もそう言うとアクイラの後について行く。

「ち」
 ルベルは舌打ちするとバツが悪そうにアクイラ、星辰の後を歩き始めた。

「ねえ……」
 星辰はルベルの横に来て話しかけた。

「なんだ?」
 ルベルの機嫌は悪いままだ。

「なんで、そのユーラ―って人に会うのが嫌なのか聞いてもいい?」

「……」

「星辰、分からなねえのか? こいつユーラ―が怖いんじゃないのか? 意外だな。ユーラ―って言えば女海賊だ。女好きのお前が、女が怖いとはな」
 今度はアクイラが星辰の横に来てルベルをからかう様に言った。

「なんだと!」

「へへ、違うのか?」
 少しいやらしい顔をするアクイラ。ここぞとばかりに意趣返ししている様だ。

「へえ、ユーラ―さんて女性なんだ?」
 そんな二人をよそに星辰はユーラ―が女性であることが意外そうだ。

「なかなかの美人らしいぜ。だから、こいつがそんなに怖がるのが意外なのさ」

「そうなんだ。確かに意外だね」

「お前ら、俺をなんだと思ってる!」
 ルベルが二人の方を向いて怒鳴る。

「おいおい、図星だからって怒るなよ。ルベルちゃん」
 アクイラはひるまずルベルを揶揄する様に言った。

「本当。君らしくないね。何があったの?」
 星辰もルベルに聞いた。

「なぜ言わなければならない?」
 ルベルが横を向く。

「そんなにピリピリしてたら、聞きたくもなるぜ。なあ星辰?」
 アクイラが星辰に同意を求める様に言った。

「うん」
 星辰はうなずくと曇りなき眼でルベルを見た。

「ちっ、昔の話だ」
 ルベルが観念した様だ。

「へえ、何があったんだよ?」
 アクイラが興味深々で聞いてくる。

「ただ、殴られただけだ」
 ルベルが少し憮然とした様に答えた。

「殴られた? それって五歳くらいの子供のころの話だよね。その時に殴られたの?」
 殴られたと聞いて、今度は星辰がルベルにそのことをたずねる。

「ああ。母さんが亡くなってしばらく経ったある日、突然フェミナさんが俺の部屋に入ってきて『いつまでも泣くな!』って言われて殴られた。確かに俺は母さんが亡くなって毎日部屋で泣いていたが……」

「お母さんが亡くなって泣いてる子供を殴ったんだ……」
 星辰はドン引きした。

「その時に、なにをするんだよおばさんと言ったら、『お姉さんだろ!』とさらに殴られた」

「ユーラ―は、その頃いくつよ?」
 アクイラはニヤニヤしている。

「その情報いるか? まあ、父さん、母さんと同年代だからその頃は二十代半ばくらいだったか……」

「はは、そりゃ怒るのも無理ないかもな」

「だからと言って子供を殴るか? その後、彼女はしばらく俺の家に滞在していたが、彼女がいる間は自宅なのに安らげなかった……」

「な、なるほど。海賊の頭領だけあって、豪快と言うかなんか女傑っぽい人だね……。ルベルの気持ちがなんとなく分かってきた……」

「だろう。とにかく、とんでもない人だ……」
 ルベルがうつむく。

「だけどよ、そのおかげで母親が死んだのを吹っ切れたんだろ?」

「ふん。まあな」

「まあ、ユーラ―なりの激励だったじゃねえか?」

「だったら、もう少し何か別の方法があるだろう。確かに美人だった印象があるがな……あそこまで気性が荒くなければな……」
 そう言うとルベルは、はあとため息をついた。

「はは……。話は変わるけど、アクイラが言う深紅の秩序の砦って遠いの?」
 星辰が話を変えた。

「いや、見えてるだろ? あの建物だよ」
 アクイラはそう言うと、巨大な建築物を指さした。

「え、あれ? アルゴルの塔より大きくない? 砦っていうより要塞だよ」
 星辰が、その深紅の秩序の砦を見て驚きの声をあげる。それほど巨大な建物だった。

「はは、来るなら来いと言わんばかりだな。ユーラ―には隠れて戦うとかって気は無い様だぜ」
 アクイラはそう言って少し愉快そうに笑った。

「確かにでかいな。いや、それよりもあの建物、思ったより距離が近いな……」
 ルベルがぽつりと言った。

「なんだ? 距離が近いのは良いじゃねえか? あのラートルが、意図して近い距離にテレポートさせた様だな。どんな意味があるのか分からねえし、それはそれで、なにかムカつくけどよ……」

「いや、こんな近いとは……。まだ、心の準備が……」
 ルベルはいつになく弱気だ。

(予想よりもさらに豪快な人っぽいね……。ルベルじゃないけどちょっとだけ不安かも……)
 星辰はそう思うと、苦笑いをした。
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