5章 第4話 血の三兄弟

文字数 2,747文字

 塔の周りの木々を避けながら、ファミリアに乗った四人は塔へ近づいて行った。 

「本当に優勢だな。例のサングイスの連中はもしかしていないのか?」
 ルベルが目の前の戦況を見ながらニーナに聞いてきた。

「そんなことはないと思いますが……」

「待って!」
 次の瞬間、星辰が叫んだ。
 叫ぶと同時に爆発の様なものが起きて、目の前の味方が数人吹き飛んだ。
 ずっと先に大柄の男性が立ちはだかっているのが見えた。

「あれは。サングイストライアドの長兄、シルウァーです!」
 ニーナがその男を見て叫んだ。

「ふん。やっとお出まし……!?」
 喋っている途中で、ルベルは瞬間的にその場からとっさに離れた。
 後ろから奇襲を受けたのだ。だが、その場を離れたおかげで攻撃は避けた。

「ちい、避けやがった!」
 ルベルに襲い掛かった男が叫ぶ。右手にナイフより少し長い刃物を握っている。

「その男は、トライアドの№3セルペンスです」
 ニーナが男を確認した。

「ふん。こいつが……。さっき見たホログラムと……!?」
 アクイラがセルペンスを見ると同時に、ルベルと同じ様にその場を離れた。ルベルと同じく襲撃されたからだ。

「ほう」
 アクイラを襲ったのは長身で細身の女性だった。こちらの攻撃もすんでのところで避けれた。

「ルベル! アクイラ!」
 星辰が叫ぶ。

「星辰。叫ぶな。問題ない」

「アタシもな」

「その人がトライアドの№2、アピスです」
 ニーナが三人に説明した。

「分かってるよ。ここに来る途中にホログラムで確認したからな」
 アクイラがニーナの説明に答える。

「あれがアピスか。ふーん。ホログラムで見るよりなかなかの美人だ」

「アクイラの時と言い、また言ってる……」
 ルベルのセリフに星辰が呆れる。

「なかなか良い反射神経をしているな」
 いつの間にかシルウァーが星辰たちの目の前に来ていた。
 アクイラとルベルを襲撃した、アピスは星辰達から見てシルウァーの左横に、セルペンスは右横へと移動した。

「この二人の攻撃を避けるとは並みの人間に出来る事ではない」
 シルウァーが感心した様に評した。

「お前が星辰か?」
 シルウァーが星辰を見て聞いてきた。

「……。そうだけど」

「そうか、深紅の秩序の砦にいると言うのは本当だったか。ドロースが、もしお前を見かけたら連れてこいとのことだ。一応聞くが、こちらにつく気はないか?」

「いやだ。この星の人たちを苦しめてるアルゴルに行くわけない」
 星辰はきっぱり断った。

「いいのか? その女の妹がどうなるか分からんぜ? なあアクイラちゃん?」
 №3のセルペンスがいやらしい笑みを浮かべてる。

「……」
 アクイラは少しつらそうにセルペンスを見ている。

「アクイラ、ごめん。僕はやっぱりアルゴルに与する事はできない。……でも、君の妹さんは僕が救って見せる。この数日間、ずっと考えてた。君の妹さんを救えれば、君は自由だ」

「な、星辰……」
 アクイラが驚いた様に星辰を見る。

「クックック。そんなうまく行くかクソガキが」
 セルペンスが揶揄する様に笑う。

「やって見せる!」

「その意気や良し。お前の意義に免じて、その小娘が我らに戦いを挑んて来た事をドロースに報告しないでおこう」
 シルウァーが星辰を見て言った。

「へ。それはご親切にどうも」
 アクイラが皮肉っぽく答える。

「ふん。そもそも、そんな報告はできない。全員、俺達が逮捕するからな」

「赤頭……」
 アクイラが意外そうにルベルを見た。

「そうです。サングイストライアドもドロースも捕えてしまえば、良いんです」

「ニーナ……。ここまで来たら、そうだな……。アタシの妹をさらって威張り腐ってる、あの女をぶちのめす!」

「あんた、後悔するよ?」

「今更、引けるかよ!」
 語り掛けたアピスにアクイラがにらみ返す。

「面白い。二人とも、ノーマルモードを解除しろ」
 シルウァーの言葉を聞いたアピスとセルペンスの体の構造が変形していく。
 アピスは背中から蜻蛉(とんぼ)の様な四枚の羽根が生え、セルペンスは腕の関節がなくなり、まるで軟体動物の様に曲がり始めた。
 シルウァー自身も来ている服が割けて中の機械の体があらわになった。

「セルペンスはその赤い頭の小僧。アピスは小娘二人。俺はそのアルブスAIのファミリアの小僧を相手する!」
 シルウァーがアピスとセルペンスに命令をくだした。

「ふん!」
 セルペンスをナイフの斬撃をルベルは再度うまく避けた。しかし、それによって星辰たち三人とは引き剝がされてしまった。
 同じタイミングで、四枚の羽根が生えたアピスが空中からアクイラとニーナに襲い掛かった。

「ちぃ!」

「くっ!」
 二人もアピスの攻撃を避ける。それもまた、星辰から離れる形となった。

「みんな!」
 星辰が一人残る形となった。

「各個撃破させてもらう。今、言った様に俺の相手は小僧。お前だ」

「小僧じゃない。僕の名前は星辰だ!」

「良いだろう星辰。勝負だ」

 星辰とシルウァーが対峙している時。三人から引き剥がされたルベルとセルペンスもまた戦闘を開始していた。

「ヒャハハハ」
 下卑た声を出しながらセルペンスがルベルにナイフを突き立ててくる。
 ルベルはデネブ降りて足を地につけて戦っている。
 ルベルは両手で槍を持っている。
 槍と言っても柄は短く短槍(たんそう)と言った方がしっくりくる。

「デネブ。シャボンカッター」

「イエス。マスター」
 デネブがシャボン玉のカッターを繰り出すが、軽くかわされカッターはセルペンスの後ろにある木々の枝や幹を切り刻むだけだった。

「このっ!」
 次にルベルは持っている短槍でセルペンスに突きかかるが、何度突いても槍は空を突くだけで、相手に当たらなかった。
 逆にセルペンスの左腕がルベルの右腕に絡みつきルベルを投げた。

「くっ」
 地面に投げられた、ルベルはすぐ受け身を取り体勢を整えると再度短槍でセルペンスを突いた。

「こいつ、ぐにゃぐにゃと……」
 セルペンスの動きには関節が無いと言ってよく、まるで蛇の様に動いてルベルの短槍の突きをことごとく避けていく。

(こいつ、資料で関節が無いと記載してあったが聞くと見るは大違いだ……)

「ヒヒ、小僧にしては、思った以上の突きだ。しかし、不便だよな。人間ってものは」
 互いにいったん距離を取るとセルペンスはルベルを揶揄する様に言った。

「ちっ」
 ルベルがサイコキネシスで地面に落ちている石をセルペンスに飛ばす。
 しかし、セルペンスはそれも近くの木に巻き付き上りながら避けた。

「あの小さいガキ以外は殺して良いと言われている。お前が攻撃に疲れ果てたころにナイフを喉に突き立ててやるよ。クハハ」 
 木に登ったセルペンスの声が響く。

「ち、なめるなよ」
 ルベルはそう言ったものの、完全にセルペンスの姿を見失った。
 日が落ちて、夜が更けてきた。
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