18.《 将来を夢見る日 》 2022/5/18

文字数 1,943文字



もし「僕の年齢/72歳で将来を夢見る資格があるだろうか?」 と問えば、
みんなきっとこう答えるに違いない、「もちろん。夢に年齢制限はない」と。
将来という言葉を、しからばどう見るか?
辞書によれば・・・未来よりは近い現在に近いところ・・・らしいが、特別な決まりはないようだ、およそ10年ぐらいでいいかと思う。
そうすると、82歳になった自分を想像し、ありたい姿や、望むべく世界を夢見ることは許されるみたいだ。

そんな、まさに夢のようなことを思いついたのは先日観た映画のせいだ、
「カモン カモン(2021)」というその作品の中で、子供たちが真剣に将来を考えるシーンが繰り返される。
「貧富の格差を少しでも改善したい」、
「家族を愛し続ける」、
「差別には負けない」、
「少しは勉強してマシになる」、
子供たちの将来の夢を聞いているうち、僕が小さい頃には全く「将来の夢」を持っていなかったことに気づいた、思い出すにも恐ろしいことだ。
子供らしい「何何になりたい」、(何何には野球選手、歌手、映画スター、電車の運転手、ケーキ屋さんなどが入る)といった発言もしなかった。
ひとつだけあったのは、「トウダイに入れ」という親からの洗脳もどきの呪文の言葉のオウム返しだった・・・「トウダイに入る」。
戦後高度成長時代に小・中・高を過ごした僕らにとって「トウダイに入れば何でもできる」は万能薬だった・・トウダの後ラーメン屋さんにもなれるという失礼な笑い話もあった。
加えて僕の家系としての圧力もあった、祖父がトウダイ出身だった、「しからば孫も・・・」というこれまた根拠のない理不尽な要求がされた。
僕の知っている祖父は実際には世捨て人のように生きていた人だったので、幼い僕にはトウダイの意味がますますわからなくなった。
結局、トウダイに入るという夢は実現しなかったので、いまだに夢は未見のままである。

それでは、諸悪の根源のように言われてきた団塊世代に、果たして「将来の夢」があったかどうか?
同世代で「将来の夢」の話し合った覚えがない、していたのはいつも受験のことばかりだった。
志望校、合格率、毎週の模擬試験結果の話しか記憶に残っていない、そこにあったのは大学に行けば何とかなる・・という自己逃避、自己欺瞞だった、あぁ青春残酷物語。
当然の結果として恋に悩むこともなく、ガールフレンドとの将来に苦悩することもない高校生活だった。
大学生活も将来の夢のないままに過ごし、これまでの流れを変えることができなかったのは受験戦争の後遺症と言われているがそれは違う、間違いなく自分の怠惰のせいだった。

社会に出てからの将来の夢はシンプルだった、たくさん稼ぐこと。
新卒入社したイタリアの日本法人は社会貢献の理念を持った希少な企業だったおかげで、たくさん稼ぐことと灰汁どく稼ぐことの違いを教えてもらった。今では歴史の一コマになってしまった「バブル期」に道を踏み外さなかったのはこのおかげだった。
29歳の時には子供が三人いた、子供の成長に合わせて引っ越すること2回、気が付いたら片道2時間通勤の毎日だったが不満はなかった。
月の残業時間が200時間を超えるほど働いて体を壊したが、特別異常なことだと思いもしなかった。

36歳の時最初は近所づきあいからスタートしたフルマラソン、37歳からはトライアスロン、僕の人生のメインになるアスリート人生が始動した。
家族のために頑張っているからスポーツにちょっと手を付けてもいいだろう・・・と。
過去スポーツとは無縁の僕にしては一大決心だった。
「アイアンマン・トライスロン世界選手権(ハワイ)」出場という目標が、もしかしたら人生初めての「将来の夢」だったかもしれない。
4年後その夢を達成したとき、僕はすでに全身どっぷりとトライアスロンに浸かってしまっていた。
「将来の夢」は・・・死ぬまでトライスリートであり続けることに更新された。
そして夢は往々にして果たされないまま消え去る、63歳の時 脊柱管狭窄のためトライアスロンをあきらめた。
夢無きその後の10年間においても細々とマラソンだけは続けたが、それも昨年末の2021ホノルルマラソンでピリオドを打った。

4年前、我がしのび草として自分史「あるいはトライアスリートという名のナルシスト」を書き上げた勢いで、小説にも挑戦した。
三作書き上げたが、テーマ・素材がプライベート領域に留まるフィクションでしかない、どうも満足ができないままでいる。

そこでである、
72歳の今、将来の夢は本格的なミステリー小説を書き上げることにした。
内容には頓着しない、自分が大好きなミステリー小説、その真似事でもいいから書き上げたい。
これは立派な「将来の夢」だ、しょせん夢だとしても。
夢がまだある「今日である」。
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