第1話 十五夜にススキと月見団子

文字数 922文字

幼馴染の戦士のルカと魔法使いのハルトと一緒に、弱い魔王を倒した。

いくら弱いとは言え、くさっても魔王。魔王を倒せば勇者になるのは常識だった。


とどめを刺したのが俺だったから俺が勇者になった。魔王を倒せそうという時になって、急に二人が手を抜いたからだ。

(あいつら、勇者になりたくないから俺に押し付けただけなんだろうな……)
俺はそんな程度の勇者。

どこにでもいる、ふつうの獣人。


魔王に捕らえられていたお姫様をお城に返して、生まれ育った村に帰ってきていた。

(いちおう肩書は勇者になったけど、冒険もひと段落着いたから勇者はお休みってことで)
魔王を倒してお姫様を助けてきたんだし、少しくらい休んでもいいと思う。
シイナ、今日は満月だから

お父さん、使い物にならないの。

買い物に行ってきてちょうだい。

冒険者を休日にして家にいると、両親(主に母さん)の使いっぱしりのようになる。
はーい
善人な狼男の父さんは、人間の母さんと結婚した。

でも狼男だから、満月の日は狼になってしまう。

(狼な父さん、カッコイイんだよな)

狼男は月を見ると狼になると言われている。けれど父さんは、普段は人間だけど満月が近づいて来るとうずうずしてきて、満月の日には月を見ていなくても狼になる。

(俺はまだ一人前じゃないから、満月も新月も三日月も関係なく常に耳が出ている)

父さんは夜に満月に向かって吠える。

昼はそのための準備をしているらしい。


よくわからないけど、たぶん。

(獣人としても一人前じゃないのに勇者って言われてもな……)
そんなことを思いながら、母さんから受け取った買い物リストを見ていた。
母さん、

上新粉って、何?

お団子作るのよ

シイナも食べたことあるでしょ?

母さんの故郷でよく食べてたってヤツ?
そうよ

シイナも気に入ってたでしょ

うまかった。
ふつうの道具屋で売ってるの?
売ってるわよ
ふーん
(上新粉にススキ……?)
よくわからなかったけど、店主に聞けばわかるだろう。
今日は十五夜だから

お月見するわよ

お月見?
母さんの故郷の

満月にする行事

そーなんだ
いつも思うんだけど、母さんの故郷ってドコなんだろう?
ルカちゃんとハルトくんも

誘っていいわよ

わかった

声、かけてみるよ

よくわからなかったけど、お金を受け取って家を出た。
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登場人物紹介

主人公:シイナ

魔王を倒した勇者見習い。

剣も使えて魔法も使える。

極めているわけではない器用貧乏。

ハルト

シイナとルカの幼馴染で魔王を倒した仲間。

軽いけれど天才肌の魔法使い。

女子からモテる。

ルカ

シイナとハルトの幼馴染で魔王を倒した仲間。

シイナのことが好きだけど言わない。

一緒に冒険がしたかったから戦士になった。

めちゃめちゃ強い。

アリーナ姫

魔王にさらわれていた大国の姫。

生まれながらのお姫様。

シスターになる教育を受けていて治癒魔法が使える。

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