120 月神の願い・中篇

文字数 2,586文字

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「名古屋も星神に関わる伝話が多いんだ」
 名鉄名古屋本線の車中でスマホを弄る。弄りまくる。そして独り言ちる。
 担いだクエビコさんは喋らない。ムーな話は続かない。ワカヒコくんも、オオクニヌシさんも離れて見てる。みんななにも喋らない。
 そしてスサノヲも、ワカフツヌシさんも、カゲヒコさんも、いない。

 愛知県名古屋市南区本星崎町に星宮社が建つ。祭神はカガセヲ。別名は星崎宮。当地の伝話で、星の流れた後に天と地が震え、数多の星が雷のよう鳴り輝いたとある。当地は、昔は岬で、さらに昔は島。ゆえに星の崎(ミサキ)。
 また、当地は天白(アマシロ)川が流れるため、天白(テンパク)区と呼ばれる。さらに天白川の川口に天白神が祀られたため、天白川と呼ばれる。つまり天白神、天白川、天白区となるわけ。天白神は諸説がある。金星の別名の太白(タイハク)星の神格化説、流星の神格化説、北極星の別名の天一(テンイツ)星の神格化説。わからないけれど、とりあえず星神。
 浅間信仰も、熊野信仰も、天白信仰も、本来の神様は、本来の信仰はわからない。わからない神様を祀り、わからない佛様を拝み、わからない信仰を信じる。なんか笑える。



 高天原の地上説のひとつ、常陸国。日が昇る国、日高見国と呼ばれる。
 神話で、高天原を逐われ、常陸国多賀郡(茨城県北東域)の大甕山に降りた星神カガセヲ。神話で、順わぬ神、悪しき神とある。雷神ミカヅチヲは出雲国(葦原ノ中ツ国)の平国前に、古の戦の前に静の地の倭文神ハヅチヲにカガセヲを討つよう命じる。
 なんでカガセヲは常陸国に降りたんだろうか。
 なんでカガセヲが尾張国に祀られるんだろうか。
 なんか常陸国と、出雲国と尾張国は関わるんだろうか。

 カガセヲの別名は天ツ甕星。一説に、甕形の星で流星の神格化という。夜天を昼天に変えるほどの明るい流星。日のような明るい星、流星。また、凶兆の星といわれる。
 別説に、金星の神格化という。東方に、日の昇る前に昇る明の明星。西方に、日の沈んだ後に沈む宵の明星。日よりも天を長く統べ治める明るい星、金星。
 朝時(明時)と夕時(宵時)は昼時と夜時の堺目。黄昏時。黄昏時は昼ノ国に、夜ノ国の穢れを齎したり、夜ノ国の隠ヌモノ(鬼)が現れたり。黄昏時に現れる明るい金星。
 金星はヴィーナス(ウェヌス)、イシュタル、アフロディーテなど、美の女神の神名が多い。美しく輝く星。
 だけどキリスト教で、金星はルシフェル(ルシファー)。神様に仕える天使長。神様に順わず、逐われ、堕天使となる。魔王サタンとなる。佛教で、金星は人に智慧を授ける虚空蔵菩薩。古代中国で、太白昼見は昼時に金星を見ること。凶兆といわれる。智慧は良い智慧か、悪い智慧か。
 倭文(シヅリ/シドリ)は静織(綾織)で織られた布。異国の文様に対して倭国の文様で倭文と書く。ハヅチヲは機織を司る神様。全国の倭文神社の祭神。
 機織を司る神様は多い。高天原の日神も、天孫神ホノニニギの父神のカチハヤヒ(オシホミミ)の妻神も、織姫の別名のあるタカヒメも。あんなタカヒメも機を織るんだ。
 なんでミカヅチヲは機織を司る神様に命じたんだろうか。スマホを弄る。
 天ノ岩屋神話で、ハヅチヲは倭文を織ったとある。布を織ったから日神は出てきたらしい。つまり朝霧と夕霧を布に喩え、日が出るまでの金星を倭文で覆う。
 常陸国(茨城県)は全国中で霧が多い。ハヅチヲがいた静の地に静神社が建つ。

 倭文神社の本社の葛木倭文坐天羽雷命神社の建つ大和盆地(奈良盆地)も霧が多い。金星は凶兆の星。なんとなくカガセヲは金星の神格化っぽい。
[君の名は。]の宮水神社のイメージは葛木倭文坐天羽雷命神社らしい。ティアマト彗星のカケラが、隕石(流星)が落ちてカルデラができる。なるほど。噴火でなくてもカルデラができる。ハヅチヲに仕える一族の巫。たしか裁縫がうまい。
 葛木倭文坐天羽雷命神社に奉じる一族は、天武天皇の時代の684年に位階があがる。
 なぜか。
 ハレー彗星だ。そして、……。

『禍いが起き続けた。684年に伊豆大島の噴火と、統治下の畿内五国の白鳳地震。685年に浅間山の噴火。もしかしたらじぶんは天賦がないかもしれない。禍いを直せない、祟りを鎮められないかもしれない。皇極天皇の血統を継いでないかもしれない。じぶんの不徳の所為。そしてショックで、……。天武天皇の死後、持統天皇は宮中の土佐大神の佩剣、クサナギの剣1号と祟る剣の荒魂を石上神宮に祀り直した。さらに皇極天皇本貫の吉備国の、石上布都魂神社のスサノヲさんの佩剣も祀った。神宮を建て、宮中の天武天皇の佩剣を遷し祀った』

 流星は凶兆の星。なんとなくカガセヲは流星の神格化っぽい。どっちなんだろうか。



 かつて栃木県と群馬県の全域、茨城県の南西域、埼玉県の北西域に広がり、東国(東日本)を治めた毛野国。神話に、史話に、毛野国も、葛城国も、熊曾国もない。憚れ、隠され、いつのまにか忘れられた国。
 カガセヲが治めた国。カガセヲを崇めた国。祀る星宮神社は栃木県に多い。
 日のよう明るい流星の、または日の前を塞ぐ明るい金星の神格化のカガセヲ。
 だけど流星はそんな現れるんだろうか。夜時も昼時も現れる月。
 だけど金星はそんな明るいんだろうか。夜天を明るくする月。
 流星よりも、金星よりも月のほうが偉くないだろうか。
 前はひとりでひきこもりがちだったけれど、今はみんなででかけたい私。暗いほう(隠世)よりも明るいほう(現世)が好きな私。4コママンガの私が神話テイスト中二病要素たっぷりセカイ系転生モノに挑んでる。
 カガセヲよりも私のほうが偉くないだろうか。
 月の神格化の、私は考える。日神のライバルは私のほうがふさわしくないだろうか。

『三貴神のツクヨミも同じ。大事な神(高天原の日神)、大事な神に対する神(スサノヲ)、む、無為の神。神話のツクヨミは無為の神だ」

[武神彼氏1]のクエビコさんのセリフを思いだす。
 ひどい。やっぱひどい。とてもひどい。すごくひどい。ひどいよ、マサルさん。
 いつも現れる私(月)よりも、たまに現れるカガセヲ(流星)。とても明るい私(月)よりも、すごく暗いカガセヲ(金星)。なんでカガセヲを崇める。理由がわからない。
 えーと。どうせみんななにも喋らないので、スマホを弄りまくる。
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