セリフ詳細
「石楠花」
僕の父さんは腕のいい庭師だった。
柘植の木を使って、格好の良い鶴や亀をこしらえた。あれは、ちょっとでもバランスが悪いと、途端に滑稽な代物になってしまう。
町で一番大きな高槻様のお屋敷の庭も、父が任されていた。
高槻様のお庭には「絶対入ってはいけない場所」があって、そこは背の高い石楠花に覆われていた。
けれども幼い頃の僕は、そんなことにはお構い無しで、父の手伝いの合間を縫っては石楠花の木をくぐり抜け、幾度となく禁断の庭に潜り込んだものだ。
「留吉。待っていたぞ」
石楠花の檻の中で、少女はにっこりと僕を出迎えてくれた。
彼女はちょこちょこと僕の側までやってくると「さあ、今日は何をして遊ぶのだ」と瞳を輝かせた。
だから僕は、お手玉だの、独楽だのを着物に忍ばせて、彼女のもとへと足繁く通った。
あれは、戦争の始まる前のことだった。
今ではもう高槻様のお屋敷はもぬけの殻となり、手入れのされない庭は雑草が生い茂っているのだという。
荒れ果てた庭で、彼女は今でも誰かを……僕を……待っているだろうか?
花言葉をお題にした掌編集を、作りたいなと思いました。
参加してくださる方→好きな花を選んで頂き300-500程度の小さなお話を投稿してください。
作中、特に表記のないイラストは、全てイラストACさんよりダウンロードした、夢宮愛さん(https://www.ac-illust.com/main/profile.php?id=aichinnokobeya&area=1)の作品です。
小説だけでなく、お花にちなんだイラストや写真の投稿も歓迎です。