セリフ詳細

圧倒的想像力なのです。

こんなすごい話が80年代に描かれていたなんて。。

今読んでもこの情報量に驚きます。


それはまだパソコンソフトがカセットテープで売られていた時代、8ビットのコンピュータが全盛で、ようやく16ビットマシンが世に出たぐらい? とまあそんな時代に書かれた近未来SFです。

そのころから見た近未来の描写なので、まだ電話機は受話器にカールコードがついた固定式で携帯電話は出てこなかったり、インターネットは(らしきものはでてますが)存在しなかったりします。が、そんな些末なことはお話の魅力と、この先見性の前には全く問題ありません。


とにかくすごい。

語られていることは深く、大きく、哲学的ですらあります。

タイトルにもなっている1と0、言わずもがなのコンピュータの根本原理、スイッチのON/OFFに対応した2つの数字から始まり、光と影、陰陽の対比。二元論から複雑化していきカオスとなり、やがて曼荼羅というある種の数学的パターンへ……。

それが、人類創生や宇宙生成の秘密、「神々」とその神々にあだなす「魔」たちのはるかな万古からの戦いとして描かれ、人類によって生み出された、そもそも二元論で駆動するコンピュータによってそのシステムが解明されていく……。

コンピュータに芽生える自我。人間の精神の探求。神を探すプロジェクト。


なんとまあ壮大なのでしょう。


で、も、ですよ。

でも、これらが一介の(?)高校生たちの上に降りかかり、彼らの一種能天気な日常と交わりながらストーリーが展開していくのです。


このギャップがすごい。でもって取っ付きやすい。


主人公たちが神々側ではなく、「魔」サイドとして描かれていることも面白いですね。

巨大な力を持つ神々たちが目指している完全無欠のユートピアに反発する若者の姿が、たぶん読者に近しくて身近なものだから、それがこの取っ付きやすさを生み出しているのかもしれません。

(なにしろ人類の未来より明日のテストが気になる子たちです)


普通の作家なら、神々との最終戦争! ハルマゲドン接近っ! ってかんじでスペクタクルにしちゃうんでしょうが、佐藤史生さんは、ごくナチュラルにどこにでもいそうな若者たち(みんな美形だけれど(笑))と共に、末法の世をイージーに生きる(?)感覚で描いてくれているのです。

この感覚がよいのだわあ。


深く細かく難しく読むこともできるし、キャラに感情移入して彼らの視点でレトロフューチャー(と言うほどレトロではないですが)な末法の世を楽しむこともできる。不朽の名作SFコミックです。ちょーおすすめ!!


作品タイトル:らせんの本棚・V

エピソード名:『ワン・ゼロ』

作者名:神楽坂らせん  K_rasen

134|創作論・評論|連載中|100話|100,031文字

レビュー集, ネタバレなし, なんでもかんでも, アトランダム, コミック, 小説, SF, 技術書, いろいろあるよ

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地道に不定期更新。神楽坂らせんが読んで「グッ!」と来た本達の紹介レビュー集です。
アトランダムに食指が動いた本を乱読しています。
基本、ネタバレはなしで、なるべく内容をバラさずに本の面白さを紹介するように心がけています。
ですから対象本を読む前に読んでいただいてぜんぜんオッケー!
読んだあとから読んでいただくと、「そうそう!」って言いたくなる、そんなレビューにしているつもりです。

順番関係なくどこからでも気になったタイトルをどうぞー♪

※Google+の『本が好き』というコミュニティへの投稿が元になっています。2019年4月にGoogle+が閉鎖されてしまうという話もあり、この先どうなっちゃうのか心配ですが、まあいけるところまでまったり行こうとおもいます〜。