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クリエイター産業に憂いを持っています。

あらゆる方面においてセミプロ以上の創作者が幾何級数的に増えているように見受けられます。プロと一般人の境目も小さくなり、デビューの壁も低くなっていることなど、様々な要因があるでしょう。

とくに座談会最初のほうでも書きましたが、小説のようにひとまず文字が書ければ体裁が整えられるようなものはともかく、長年の研鑽が必要な漫画家さんがこれだけ増えてきていることに自分は驚きを隠せません。まだ小説家は文字だけなので退路を考えるほどでもなく気が楽に保てるところはあるのですが、画力・コマ割り・ストーリー作り・文章まで幅広い努力を重ねてきたはずの漫画家さんの身になってみると切実さは増して感じられます。


クリエイターが増えることで競争が活発化し、全体のスキルが向上していくと考えるむきもあるでしょう。いやしかし、そうではない。

日本全体の需要が縮んでいるなかで、供給側の過剰感が激しさを増した今、危険な過当競争の領域に入ってきているのは確かです。


とりわけ日本という国は、過当競争の弊害をあまり問題として受け止めない傾向があります。滅私奉公という言葉もあるくらいで、個人が何か上位のものに対して無償の愛や労働をささげるような行為は美しいとさえみなされがちです。日本がデフレ体質から容易に抜け出せない遠因の一つともなっているでしょう。

しかしながらより広く市場経済という立ち位置で見下ろせば、過当競争は、独占と同じかまたそれ以上に危険な経済事象であるとぼくは考えています。


個人の努力、企業の努力には、どうしたって限界点があります。生き残るためにサービスの価格を下げ続け、コストも削減し、馬車馬のごとく働いて疲れ切り、その果てに個人も企業も気力を失っていくことになります。やがて野放図な過当競争は、産業の荒廃に繋がっていきます。


しかし実際のところ、そうした現実を歩んでいるのがぼくらのクリエイター産業です。

それでも我々としては、クリエイター産業の灯火を照らし続けていかなくてはならないとも感じています。

単に個人生活とか創作が好きとか嫌いとかそういう類いの話ではなくて、この社会が世界でようやく勝負できる数少ない分野にクリエイター産業があると思うからです。


かつて日本には2本の軸足があるとされました。90年代ころまで政府や省庁の資料でもしばしば語られていましたが、2本の軸足とは家電産業と自動車産業です。

しかし当の軸足の一本であったはずの家電はどうなったでしょうか。見るも無残な状況です。あっという間の出来事でした。乾いた笑いすら出てきません。

自動車産業で同じことが起こらないとは考えづらいです。自動車産業は今、日本全体の雇用の10%を支えるほどの一大産業ですが、これから進展していくEV化、自動運転技術、シェアリングエコノミーのいずれをとっても、日本の自動車産業にとって優位な側面があるとは思い難いです。電池技術にまだ少し可能性があるくらいかもしれませんが、そこも死守し続けられると思うのは楽観視しすぎにも程があります。


これからの日本は、観光産業と介護産業の国になる見込みが高そうです。介護産業だけではあまりに悲惨なので、政府はいま観光産業を躍起になって育てようと試みていることは皆さんもご存じの通りかと思います。

ぼくとしてはクリエイター産業も、これからの日本を支えうる可能性があり、世界でもなんとか勝負を継続していくことが可能な数少ない分野なのではないかと感じています。紫式部や葛飾北斎や手塚治虫を出せたのはこの社会の独自性があったればこそですし、これからもまだしばらくは良くも悪くも日本のガラパゴス状況は残りそうにも思います。

またなによりクリエイターと貧しいことはそれほど反目する要素ではないんですね。南海トラフなどを控えている日本ではありますが、クリエイター産業は幸いにも設備産業ではないですから、巨大災害への耐性も高いです。

AIもITも軍事もバイオも膨大な資金力がないとどうにもなりませんが、創作というものは資本力より文化的背景のほうが大きいと受け止めています。もちろん映画化、ドラマ化、ゲーム化などにあたってはますます資金力が必要とされる昨今ではありますけれども、最初のIPを生み出す部分はクリエイター個人の力量によるところが大きく、そこには資本力は簡単には入り込めない要素があります。


自分は事業家のためかグローバルエコノミー優先な傾向がありますし大して愛国的だとは思いません。そしてこれからの日本の厳しい状況は、それが古より繰り返されてきた文明の盛衰なんだと言われればそれはその通りでしょう。しかし文明や国家はともかく、個人として、このまま座して死を待ちたいですか?


ぼくは一人のクリエイターとして、この大きな流れに抗ってみたいと考えています。

文明全体の流れなんだと言われれば、どこまで個人で抗えるかわかりません。でもせめて自分の周囲だけは何とか守りたいと思っていますし、もし叶うならば日本の創作の灯火はこれからも世界に冠たる存在であってほしいものです。それが、こうして繋がるクリエイターの同志たちや創作産業に携わるすべての方々のためであり、ひいては自分個人のためでもあろうと思うからです。


聖書に代表されるようにたった一つの創作物が世界の未来を変えることもありますから、ぼくらのクリエイター産業は、いよいよ貧しくなっていくこの社会全体にとっての数少ない光にもなってくれるはずです。クリエイター産業の灯火を適正に守り続けることができたなら、きっと日本やぼくら個人が世界を変える可能性もあるのではないかと期待しています。





…………なんか長くなったので投稿するのをやめようかと思いましたが、せっかく書きましたし、誤解を恐れず無心でこのまま投げてしまいます。いつもいつも場違い感丸出しで恥ずかしい。これでもまだまだ話したりない部分が多く、自分の国語能力の至らなさを痛切に思い知らされますね……。

ついでながら自分は事業畑ではクリエイター産業には無縁であり続けてきましたが(うちの会社にとって利潤を生む方面だとは思い難かったので)、こうした色々な思案を重ねまして、創作方面において自分が取り組めそうな事業も準備し始めているところです。どこまでできるかわかりませんが、近いうちにクリエイターの皆さまがたと一緒に何か面白いことができると嬉しいです。


また最後に、座談会へのご参加、ご訪問、皆さまどうもありがとうございました。

作品タイトル:NOVEL DAYS リデビュー小説賞 座談会(第二部閉幕!)

エピソード名:リデビュー小説賞 座談会 #6

作者名:講談社タイガ公式  kodansha_taiga

228|創作論・評論|完結|9話|126,227文字

【リデビュー小説賞】, 講談社タイガ, 講談社ラノベ文庫, 講談社ノベルス

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「NOVEL DAYSリデビュー小説賞 座談会」

現在第二部も終了いたしました。

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■参加者
司会:作家 至道流星

講談社ラノベ文庫 編集長
講談社タイガ 編集長

リデビュー賞応募者のプロ作家の皆様

■開催概要
講談社が主催する「NOVEL DAYS リデビュー小説賞」についての座談会を開催いたします!
この賞を開催するにいたったの経緯や、現在の出版市況、小説に対する思いなどを、縦横無尽に熱く語っていただきます。

「リデビュー小説賞」の応募資格をお持ちのプロ作家の方々からのコメント、ご意見、ご質問なども大歓迎です。

*応募者や応募検討中の方へのご質問などにもお答えいたしますので、今回の座談会への参加者(書き込める方)は「リデビュー小説賞」への応募資格のあるプロ作家の方に限らせていただく形にて開催してみます。

座談会は、2018年10月18日(木)の16時頃~1週間後の25日16時頃までを予定しております。

リデビュー小説の開催概要はこちらをご覧ください。
https://novel.daysneo.com/award/kodansha001.html

*こちらの座談会は開催当時の紹介です