セリフ詳細

 春休みも残すところあとわずか。お彼岸で帰っていた親戚連中がそれぞれの家に戻る日がきた。玄関先に荷物を置いて、のんびり雑談してたと思ったら――。


 出立の時間になって、一番下の従姉妹の姿が見つからないらしい。大人たちは大慌てだ。大声で名前を叫んで探し回っている。広い屋敷に広い庭、どこもかしこも大騒ぎ。


 知ってるのに、あの子の隠れる場所くらい。訊けば教えてあげるのに。


 僕はこっそり庭におりた。




 ほら、壁に沿った庭の外れ。幾重にも被さる雪柳の花の下。揺れる白波の間をぬって、重たげな枝をそっとよけると――。


 白い木綿のワンピースが丸くなってる。

 見つけてもらうのを待ちくたびれて、眠りかけてる。


 呆れ顔の僕を寝ぼけ眼が見あげてる。

 彼女は口を尖らせて、顔をしかめて人差し指を立てている。


「しいっ! ずっといっしょにいてあげるからね」





作品タイトル:花言葉ものがたり

エピソード名:雪柳

作者名:観月  tukinoniwa

132|その他|連載中|22話|23,297文字

花言葉, 掌編

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花言葉をお題にした掌編集を、作りたいなと思いました。
参加してくださる方→好きな花を選んで頂き300-500程度の小さなお話を投稿してください。
作中、特に表記のないイラストは、全てイラストACさんよりダウンロードした、夢宮愛さん(https://www.ac-illust.com/main/profile.php?id=aichinnokobeya&area=1)の作品です。
小説だけでなく、お花にちなんだイラストや写真の投稿も歓迎です。