エノラゲイに伝えて

作者 松平眞之

 2045年現在、米エネルギー省・執行事務局局員のナオヤ・ジョージ・ハリカエ・ワイズナーは、PPRS(過去事象再現シミューレーター/パストフェノメノン・リプロデューション・シミュレーターの略)と呼ばれる最新式のMR(複合現実)機器を使い、被爆体験シミュレーションを行おうとしていた。
 自身の人格変換プログラムでの設定人格は、広島での広島に投下されたウラニウム活性実弾のリトルボーイに被爆、その翌日薨去した旧日本公族(朝鮮王族)の雲硯宮李公偶(うんけんきゅうりこうぐう)であった。
 一ヶ月前ナオヤはヴァルチュア( V u l t u r e/ハゲ鷹)と仇名する上司のJ. R o b e r t J r. S m i t h. (ジェイ.ロバート. ジュニア.スミス)に命じられて雲硯宮李公偶が、日本軍に依って無理矢理広島に本拠を置く第二総軍に配属、教育参謀として非業の死を遂げた件について極秘に調査をすることと、それと併せて第二総軍を原爆投下に依って殲滅させない限り、太平洋戦争を終結することが出来なかったことの決定的証拠を手に入れよとの命令を受けた。
 それはマンハッタン計画国立歴史公園の民間払い下げ事業に際して、原爆投下を正当化させる為の調査命令であった。
 そこには原爆投下を間接的であっても日本のせいにして、韓国人被爆者の遺族の矛先が米国に向かないようにと言う伏線もあった。
 しかし調査結果は上司やその上の大統領官邸の目論んだ結果とはまったく逆であり、李偶公は自ら望んで第二総軍へ配属となったのであった。
 彼には大韓帝國復辟と言う野望があったのだ。
ナオヤは真実の調査結果を伝えるべきだと決心し、真実を記したリポートを提出したが、とどのつまりその調査結果は闇に葬り去られることになる。
 その後約一ヶ月の間ナオヤはヴァルチュアに従順な態度を示してきたが、今まさに真実を伝えると言う誓いを全うしようとしていた。
 遂に被爆体験を終え決心を固くしたナオヤは、ネット上に真実の情報を拡散させる。
やがてナオヤはホームセキュリティシステムの人工知能が作詞作曲したアラーム音の、「エノラ・ゲイに伝えて」の旋律を聴く。それは何者かがナビゲーションシステムで、ナオヤの自宅に行き先を指定したと言う情報を伝えるアラーム音であった。
 直後ナオヤは玄関前にフルオートドライブのEVワゴン車が停まり、その黒塗りのワゴン車から降りて来たのだろう、黒いスーツの男達が数人、雨の中傘もささずに玄関の方に向かってやって来るのを見る。 

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