第2話

文字数 1,921文字

 シンイチは、目の前のサトミを見て、感じた。
 そうだ、と。
 あの前の会社にいたカホも、帰国子女だった。
 アメリカ帰りで、英語がペラペラだった。
 サトミも、そうだったのか?
「海外、どこにいたの?」
「アメリカ。東海岸。バージニア州にいたよ」
「へぇ」
 一瞬、英語がペラペラなイメージがある。
「いつから、アメリカにいたの?」
 今時、アメリカへ行く日本人、アメリカから帰ってきた日本人なんて珍しくない。シンイチの通っていた大学にも、英語の先生は、帰国子女の女性だった。
「小学校3年生の時から高校生まで」
「へぇ」
「それで、お父さんが、関西へ戻って、私たちも、関西に戻った」
「関西のどこ?」
「京都」
 サトミは、そんな海外で、英語をしゃべるイメージを、シンイチは、持てなかった。
 サトミは、高校生の時、京都市内の高校に進学し、大学は、大阪の大学へ行った。
 今、サトミは、関西、そう、京都から東京へ来ている。
「英語、しゃべることできるか?」
「いや、もう、英語は忘れたよ」
「ふーん」
 とシンイチは、サトミに相槌を打った。
「アメリカでは、バンドをしていたけど」
「うん」
「英語の歌、飽きた」
「へぇー」
 と感心したシンイチだった。
 そして、サトミは、どんな経緯で、東京へ来たのだろうか?とも思った。
 シンイチは、サトミと音楽の話をしたが、サトミは、シンイチがよく知らない海外の歌を聴いていたと分かったが、それでも、英語だけではなく、フランス語やスペイン語、イタリア語、ドイツ語の歌も聞いていた。
 そして、そんなサトミの話を聞いていたら、サトミは、色んな言語を知っているが、不安になったらしい。
「自分って、何者だろう?」
 と思ったのだとか。
 サトミは、アメリカにいた時、ジョンソンという彼氏がいて、アメフトをして、そして、サトミは、チアガールもしていたが、あまりにも優しすぎて、破綻したのだとか。そんなジョンソンの写メがあったが、そんな優しい、まるで繊細な性格とは思えない強面の顔立ちと体つきだった。
 その内、サトミは、日本に帰国したのだが、
「七夕さらさら軒まで揺れる」を聴いて、あまり、英語の地に足がつかない歌が嫌になったらしい。
 反対に、シンイチは、何度も「日本を出たい」とか「yoasobiみたいになりたい」とか「96猫すごい」なんて思って、アメリカに行きたいとか、イチロー選手とか、今の大谷翔平選手みたいに冒険をしたいと思っても、ずるずるこの年齢まで来た。
 もう40代後半だった。
 母親の里伽子は、もう、76歳だが、元々、シンイチに、音楽をよく教えていた。里伽子は、元々、ピアノの教師だったが、シンイチに「良い大学へ進んで欲しい」とか「良い会社へ行ってほしい」となって、前の会社に入ったが、それでも、同期からは、外され、やがて、恋人は、違う男性と結婚し、到頭、一人になってしまった。
 シンイチは、それでも、地域のカラオケサークルに入ったのだが、そこは、高齢化が進み、サークルの代表の女性が、病気で、閉会になった。
 実は、シンイチは、あまり、若い女性が得意ではなかった。
 そもそも、シンイチは、母親の過保護で育ち、「セックスは悪いものだ」とか「若い女性に気をつけろ」と神経質に言われて育ち、そして、そのまま40代後半まで来た。
 いや、本当は、有村架純に似ているサトミが、興味があって、「身体が、欲しい」と思っても、自分の気持ちに正直になれず、悶々としている。
 母親の里伽子は、シンイチにそんなことを言うのは、一つは母親の里伽子は、夫のキョウイチと仲が悪く、そして、その夫婦仲で苦労をしたのだから、と思っていた。そして、母親の里伽子は、苦労をしたのだと思う。
 夫のキョウイチは、そもそも、あまり、妻の里伽子と子作り以外は、関心が持てず、そして、結婚してからも、他所で女を作っていた。
 それゆえ、妻の里伽子は、苦労をしていた。
 しかし、夫のキョウイチと妻の里伽子は、元々、音楽が二人とも、好きで、二人は、確かに、夫婦仲は悪いが、それでもNHKののど自慢やビックショーなんてあったら、やれ北島三郎だの和田アキ子だの渡辺真知子だのと言っては、二人で、合唱をしていた。
 そして、そんなときの妻の里伽子は、母親の顔というよりも若い娘みたいになって、また、夫のキョウイチも、目が生き生きとして、青年になっていた。
 そう、そして、両親は、そんな時。シンイチから見たら楽しそうに見える。
 一人息子のシンイチも、そんな両親を見て、子供なのに、北島三郎とか渡辺真知子とか和田アキ子を歌うませた子供になっていた。
 だが、そんな時、シンイチの家は、音楽によって守られているように思っていた。
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登場人物紹介

シンイチ…40代の会社員。東京在住。音楽が趣味。屋上で歌っている。

サトミ…20代後半の会社員女性。京都出身。アメリカからの帰国子女。シンイチに興味を持つ。

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