第1話

文字数 1,272文字

ボクとマリの出会いは今から四半世紀も前のことだ。
当時のボクは小学6年生で、右も左もわからない子供だった。
成績はいつも真ん中あたりで、これといった得意分野も不得意分野もなく至って平凡な人間だった。
いじめられてはいなかったけど友達は少なく、学校にいないときは家に閉じこもってゲームばかりするような人間だった。
宿題はほとんどやらなかった。
宿題しないと翌日、担任に怒られるのだけど、宿題よりもゲームのほうが面白いのだから仕方ない。
「宿題しないとろくな大人になれないぞ」
当時の担任や両親はそういってボクを脅したが、宿題したからといって立派な大人になれる保証なんかどこにもないだろう。
それにそもそも、算数や国語はともかく理科やら音楽やらを学んで何かの役に立つだろうか?
なんの役にも立たないだろう。
会社の会議で、ト音記号やモーツァルトや万有引力のことをプレゼンして賞賛を得ることがあるだろうか?
そんなことあるわけがないのだ。
どうせ社会人になって役に立たないことをするなら、ゲームしていたほうがよほどマシ-というのが当時のボクの見解だった。
今にして思うと、ト音記号や万有引力はともかく、モーツァルトやベートーヴェンの素晴らしさはもっとはやくから気づくべきだったなと思う。
なにしろ彼らは現代音楽の基礎を築いた偉人なのだ。
知らないものなどいないからハナシの種になるし、何より彼らの音楽を知らずに過ごした期間が勿体なさすぎる。
しかし、彼らの素晴らしさに気づけなかった小学生のボクはその時間の大半をゲームに費やした(なんと愚かだったのだろう)。
終業のチャイムが鳴ると、一目散に帰宅してゲームの電源をいれるのだ。
プレイするゲームのジャンルは、RPGとアクションゲームとレーシングゲームがほとんどだった。
こういったゲームを購入して、早くクリアすることが当時のボクの生きがいだった。
クリアは早ければ早いほどいい。
友達に自慢できるからだ。
そして、無事にクリアした翌日、こんなセリフを言って友達にマウントをとるのが至福の時間だった。
「俺、この前買った〇〇もうクリアしたぜ!」
「うわ、マジか?オレなんか全然手つけてねーよ」
「ラスボスなんか初見で余裕だったわ」
「くそー!暇人はいいよな。オレなんかクモンも塾も行ってるからゲームやってる暇なんかねーんだよ」
そういって頭を抱え込む友人にたいしておどけた顔で舌をだして悦に入るのだ。
今考えると性格の悪い子供だと思うけど、小学生なんてそんなものだろう。
"世間体"だとか、"人間とはこうあるべきだ"みたいな大人の思想にまだ染まっていない時期なのだ。
ゲームのために夜更かしまではしなかったけど、帰宅してから夜の七時までずっとゲームをプレイしていた。
なぜ七時までなのかといえば、七時以降は両親や二つ年上の兄がテレビを見るためゲームをプレイできないからだ。
ゲームをしていないときは、両親や兄とテレビ(バラエティやドラマなど)を見るか、さもなくば漫画(有名な週刊少年誌だ)を読むかのどちらかだった。
ゲームとテレビと漫画。
これが当時のボクの全てだった。
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