毛玉がいる

文字数 1,302文字

 そろそろこの町も秋めいてきた。
 風邪の季節でも無いのに、なぜか最近前より薬が売れる。
 おかしいな、道端で少女の売ってる薬なんて怪しすぎて全然売れなかったのに。

 まぁそれはさておき。
 今日はいろんな薬の材料を採りに森に来ている。
 海の近くは植物が育ちにくいらしいけど、この森の植物は特殊なんだ。

 しゃがんで綺麗な色の花を摘もうとしたら、とんでもなく長いポニーテールが垂れてきた。邪魔だ。人間も見ていないだろうし、意識して浮かせる。

 切れたらいいけどな、痛覚あるから切りたくない。

 髪を切ってる様子なんか見ると、こっちまで痛くなってくる気がする。人間の髪は痛覚がないのが不思議だ。あと、動かせないの。

 それから黙々と籠に植物を集めて、さぁ帰ろうと思ったそのとき。

 小さな毛玉が獣道のど真ん中にぐったりと倒れているのを見つけた。
 薄汚れている。茶色い。ばっちい。
 さて、どうする!?
 助ける? 助けない??
 あ、でも親がいたら助けると私は誘拐犯になってしまう。
 ごめん、毛玉。今は耐えて。
 あとで様子を見に来るから、まだそこにいたら孤児ってことで助けよう。


 夕方になった頃、毛玉はまだそこにいた。
 相変わらず元気がなさそうだ。
 私は毛玉を抱えた。抵抗もせず大人しくしている。まぁ抵抗できる元気があったらどこかに隠れるくらいしていたよね。

 今は生活に困っていないから、毛玉くらい養っていけるよね。

 よし、毛玉を飼おう。私の人生に、もふもふが欲しかったんだ!


 毛玉のために何をすればいいか考えながら、私は町に戻って行った。

 毛玉は見たところ子犬っぽい。なのに野性的。血の滴る生肉でもあげてみるかな?

 と思ったら、私の夜ご飯の一つ、魚のアラ汁に鼻をピクピクさせたからあげた。
 がっついている。元気がなかったのに、急に伏せていた耳を立てて立って尻尾も振って。毛玉から犬に進化した。
 どこにそんな元気あったのかな?

 その間に、汚い毛玉を洗うため鍋に水を入れてお湯を作る。

 洗った毛玉は銀色だった。
 初めは抵抗されたけど、洗うだけとなだめたらすぐ大人しくなった。

「なんか、毛玉、きらめいてるよね?」
「クゥ」
 それから、鳴く。クゥクゥ。
 鳴き声が可愛らしいなんて驚きだ。
犬なんて、どれも唸るものだと思っていたのに!
 野生というのが無いのかもしれない。ご飯をあげたからか、警戒心も無さそうだ。

 毛玉はすっかり元気になって私にじゃれ始めたけど、私はもう寝るよ。
 今日は疲れたしね!

 ……いや、問題が発生。
 私は気配を凄く薄くして誰にも気づかれないように森で適当に寝るんだけど、毛玉はそんなの出来やしない!
 夜の森は危険だ。こんなに小さな毛玉には優しくない。

 そうだ宿に泊まろう。お財布には余裕があるし。でも、どこにあるんだっけ? 存在しか知らないよ!
 そしてなんやかんや宿の屋根裏部屋に毛玉と一緒に泊まった私は、ベッドに魅了された。

「寝るの、楽しい!!!」
「きゅぅん」
 なにこのふかふか!
 雲ってこんな感じ? 飛び跳ねると普段より高く飛べる!
 私の楽しみが増えた。
 ずっと泊まっていたい。
 でもそのためにはお金。薬。
 働くか。
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