怪しい薬売り

文字数 1,449文字

「この町には、守り神がいてね……」
 誰でも一度は聞いたことがある言い伝え。
 小さな子どもが信じて、胸を踊らせるおとぎ話。
 そんな、言い伝えのもとの少女は……

「お金が絶望的に無い……」

 今日も、頭を悩ませていた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 やばい、だれか薬を買ってくれないとこのままじゃ飢えて
 死なない!!
 だって私、不思議生物だから。外見は人間にすごく似てるけど。そんなやわじゃないんだよね。

 いやでもお腹すくのは嫌じゃん?
「病気のご家族これ一発。医者の仕事がなくなるよ! 風邪薬、いかがですか~~!!」


 誰とも目が合わない。
 このボロ屋台じゃ、まともだと思われないんだろうな。
 薬はいい加減なところから買わないと効かなかったりかぶれたりするし、別のところでも必ず売ってるようなものだ。
 だからあまり売れなかったんだと思う。効果はこっちの方が高いと思うけど。

「今なら一回分タダだよ~~! 試してみない? ほら、お嬢ちゃん可愛いからこっちのお肌ぷるぷる薬もつけるよ!」

うーん、無視されるのは辛かったけど、今はもう慣れた。

 空を仰ぐ。
 今日もいい天気だ、ニッカは。
 空は青いし、潮風も心地よい。まだ夏なのに、過ごしやすい。観光客が多いのも頷ける。
 お昼は何を……

 いや、お金ないんだった。
 ああ、イカ焼きが食べたいぃぃぃい。あの外はカリッと、中ぷりっぷりのイカに秘伝(屋台のおっちゃんが言うに)のソースを塗りたくったやつが食べたい。
 で、口の中が塩辛くなったら魚のアラ汁を飲んでほっとしたい。

 でも今持ってるのは10ノン。これじゃなんにも買えやしない。
 貧乏は辛いよ。

 おっと、前買ってくれた人が通りかかった!
「そこ、そこのお兄さん! 前買ってくれたよね? お安くするから、新作買ってみない?」
「お、お嬢ちゃん。それは?」
「恋のお守りだよ! でもハンサムなお兄さんには、必要ないかな?」

 ふっふっふ、最近変わり種にも手を出したのだ。
 今までのだけじゃだめそうだからね。

「本当に効くのかい……?」
おやおや。
「あくまで恋の手助け。効く人には効くし、効かない人は効かないよ。自信がついたり、細やかな気遣いができたり。あと、些細なことで苛立たなくなったり。そういう人って、素敵じゃない?」

 私が試しても、絶対効かないけどね!
 だって、これがいい香りの草花を乾かして袋につめただけって知ってるし。
 でも、思い込みの力はすごいし、いい香りには人を落ち着かせる効果もあるからそこまで間違ってもいないと思う。

「何ノンだ?」
ひゃっほい!
「600ノンだけど、う~ん、ここは赤字覚悟で400ノンにするね! お兄さんへのエールだよ!」
「想像よりは高かった」
といいつつ、お財布をごそごそしている。
勝った。

「好きな相手に会う前に、それを嗅いでみるのが一番効くよ。でもやっぱり相手との相性があるから、恋が実らなくても恨まないでね~」
ちゃりん。
「毎度あり!」
やった、やった、お昼御飯が手に入ったよ! 質素にはなるけど!

袋は200ノン。
森の奥で取ってきた草花だから、タダ。
利益率は200%。
これが売れたら儲かるんだ。
でも、大人一人が一時間受付とかで働いて大体1000ノン。
それに比べて、午前中がんばって200ノン。
子供は大変だ。手のひらの上の硬貨を見つめる。

ん?
これは、なんかおかしい。硬貨は10、100、1000、10000ノンまであって、表面の文字で見分けるんだけど。
一枚だけ10ノンになってる!
ぐわぁぁぁぁぁぁあやられた!

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