活躍する毛玉

文字数 1,349文字

 毛玉は人懐っこい。
 宿の主人の匂いもしきりに嗅いで、屋台に向かう途中も通行人にしっぽを振って、警戒心とか、野生とか、そういうものが毛玉には欠如している気がする。

 いちいち人の匂いを嗅ぐ毛玉の歩みが遅すぎるので、仕方なく抱っこすることにした。う〜ん、使い古した毛布くらいのもふもふ。
 最近は儲けているので朝ご飯も食べられる。スープの屋台に行こう。かぼちゃスープがマイブームなんだよね。

 小綺麗な屋台に着くと、そこのおばちゃんが話しかけてきた。

「お嬢ちゃん。そっちの子はどうしたんだい?」
「昨日拾ったの。飼うんだ」
「へぇ。そこらの犬っころより精悍な顔つきしてるじゃないか」
「くぅん」
 そこで毛玉が鳴いて、おばちゃんが笑った。

「おや、中身はそうでもなさそうだ。それはそうと、いつものだね? そっちの子には骨がいいかね?」
「うん! ありがとおばちゃん。もし薬が切れたらうちに来てね。割り引きするよ」
「おばちゃんなんて言ってると、量減らすよ!」
「お姉さん、ありがと!」
 骨とスープを受け取ってお金を払っても、まだお金が残っている。素晴らしい。

「あ、そうそう、首輪は無いのかい? リードは? はぐれたら大変だろう。いつまでも抱っこしてる訳には行かないし」
「無い、ね。あった方がいいかぁ」


 そこを離れて歩きながら考える。
 首輪とリード、自作でき無さそうだから買うかな。
 でも、お財布に痛いな……。

 いつの間にか自分の屋台に着いていた。
 犬を飼ってる薬売りって、清潔感あるかな?
 急にそんなことに気づく。

 金持ちに飼われてる犬は綺麗だけど、大抵の犬は汚い印象だ。
 道でごろごろしたり、水たまりでばしゃばしゃしたりするし、頻繁には洗わないから。

 今のところ毛玉を隔離する以外は思いつかないけれど、まだ幼い毛玉は一匹じゃ危ない。近くにいてもらうしかない。
 仕方ない、せめて呼び込みの声で清潔さをアピールしよう。


「最近人気の恋のお守り、いかがですか〜!! うちの犬は綺麗です! 二日酔いにすぐ効く薬売ってま〜す!」

 違和感がすごい。

「冬に備えて、風邪薬いかがですか! 効き目は保証します! 犬は洗ったばかりで〜す! 痛み止めもありますよ〜!」

「わんわんがいる!」
 小さい男の子がやってきた。
 後ろから母親らしき女性が小走りで追いつく。

 お客さんになるかな?
「かわいい!」
「わんわんかわいいでしょ。この子びっくりするくらい綺麗なんだよ。触ってみる?」
「うん!」
 男の子が毛玉をもふもふし始めた。

「ありがとうございます。この子、大人しくてかわいいですね」
「こちらこそありがとうございます。構ってもらって嬉しそうです」
「いえいえ。あ、そこの痛み止め何ノンですか?」
 やった!

「いっつも600ノンなんですけど、うちの子可愛がってくれたので450ノンでどうでしょう?」
「安いわね。ください」
「ありがとうございます!」
 よかった。もうちょっとで首輪が買えるくらいになるかな?

「じゃあ帰るわよ」
「わんわん、またね!」
 手を振り返して、一息つく。
 毛玉が客引きしてくれたおかげで売れたと言っても過言じゃ無いはず。毛玉はもふもふされてただけだけど。

「よしよし、毛玉、よくやったね」
「くぅん」
 夕方にでもかっこいい首輪を見繕ってあげよう。
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