第1話 大型新人
文字数 1,992文字
1.新人、総務課に配属
新人の畑 さんは有名私立大学卒。
『女性管理職候補』を真に受け、新人がイキっているのを見るのは痛かった。
畑さんは総合職の先輩とはにこやかに話すものの、私達のような一般職の総務課の女性のことは下に見ているようだった。目もあわせず挨拶もおざなりなのだ。新人のくせに。
畑さんはよく見ると美人だったが、私達は意地でもそれを認めなかった。
畑さんは最初に総務課に配属された。
新人はまず定型業務を一通り学んでから営業部門または管理部門へ異動する流れだった。
昼休み、狩野 さんが言った。
「畑さん、こんな雑用するために入社した訳じゃないって同期に愚痴っていたらしいですよ」
私達の報・連・相は完璧だ。
畑さんが入社して良かったことを上げるとすれば、つかず離れずだった私達3人がグッと仲良くなったことだろうか。
「へえ、バカにしている雑用もミスる癖に」
「書類紛失騒ぎ起こしてみんなに迷惑かけたの、誰だって話よね」
「意味なく20分くらい離席してトイレや更衣室にいるじゃないですか。注意したらそれからずっと無視ですよ、私のこと」
2.新人、管理課に異動
畑さんが管理課へ異動して2週間後、畑さんの新しいOJTリーダー山際 さんが業務終了後にやって来た。不機嫌そうに、
「ごめん、ちょっと聞かせて。畑さんて総務課ではどうだった?」
山際さんの同期、江藤 さんの目が輝いた。
「え? もうなんかやらかした?」
「高飛車 な態度で、もうお客さん怒らせて私がクレーム対応よ。それですみませんでしたの一言もない。新しくきたパートの小池さんの方が10倍即戦力よ」
私達は口々に「もちろんうちでもミスの連続」「仕事以前に常識がちょっと」「でもね、休暇とか権利についてはものすごく詳しいの」
私達3人と山際さんは『畑、被害者友の会』を結成した。
3.新人、新章突入
『畑さんは仕事ができない』ということは早い段階で周知の事実となった。
すると畑さんは『仕事ができないのは能力が劣るからではない、体調が悪いからだ』にシフトするようになったらしい。
みんなは仮病として相手にしていないと、山際さんは言った。
症状の定まらない体調不良で頻繁に休むのだが、だいたい前日にフラグがたつので、山際さんは畑さんの行動が読めるようになったらしい。
「空咳 している。明日休むな」とか。
「わざとらしいため息連発。どうしたのって聞いてもらいたいんだろうな」とか。
「もう畑さんの唯一の理解者じゃん!」
江藤さんの軽口に山際さんは憤慨 して、みんなで笑った。
4.新人、逆パワハラをする
畑さんは簡単に休むのだが、そのしわ寄せは当然の如く周囲の人間に及んだ。
引き継ぎ無しでシステムに交渉記録も残さず休むので、お客さんとの約束が守れずクレームが多発したようだ。
「畑さん、今抱えている案件引き上げるから全部出して」
安斉 課長がそう言ったとき、畑さんは少し嬉しそうだったらしい。山際さん情報。
「だって口元緩 んでいたんだよ。ラッキーとでも思ったんじゃない。自分が拗 らせた案件、課長が引き取ってくれて。そのうちの1件、私に配布されましたけどね!」
いつの間にか安斉課長も『畑、被害者友の会』に加入していた。
「帰りに『この仕事終わりませんでした』って堂々と持ってくるんだよ。どうして終わらなかったのって聞くじゃない、当然。そうするとさ、泣くんだよ。俺、言い方キツい?」
「課長は全然キツくないです」
「昨日、真剣になに見ているのかなって覗いたら、パワハラ通報窓口の連絡先だったんだよ……」
ああ、確か畑さん、そういう方面だけは熟知していた。
「課長、気にしない方がいいですよ」
「なんかさ、パワハラって上の人が下の人にっていうイメージだけど、逆もあるよね。下からのパワハラ。これだよ。今だよ。メソメソ泣かれるとホント困る。畑さん被害者面しているけど、加害者だよ」
独身で優しい性格の安斉課長は、畑さんの対応に苦慮し心を痛めていた。
5.新人、休職する
畑さんが休職することになった。
「前日に挨拶に来たのよ。『ドクターストップがかかって、鬱でしばらく休むことになりました』その時の畑さん、再現ドラマの安い女優みたいな演技って言えば伝わるかな」
私達はいきり立った。
「なにがドクターストップだ。偉そうに!」
「鬱? 私の知っている鬱と違うんだけど」
「メンタル最強のくせに!」
畑さんが休職して10か月が経過した頃。
平常運転に戻った安斉課長が、憮然 とした表情で言った。
「みんな朗報。畑さんが退職することになった」
「あ、よかったじゃないですか」
「それがさ、結婚退職なんだよ」
「結婚!?」
「鬱で休職中に?」
最後にひと盛り上がりあったけど、被害者友の会はこれで解散か。
……あれ? 何故か、ちょっとだけ変な感じ。みんなも微妙な顔をしていた。
私達、畑さんというコンテンツを楽しんでいたのかも。
新人の
『女性管理職候補』を真に受け、新人がイキっているのを見るのは痛かった。
畑さんは総合職の先輩とはにこやかに話すものの、私達のような一般職の総務課の女性のことは下に見ているようだった。目もあわせず挨拶もおざなりなのだ。新人のくせに。
畑さんはよく見ると美人だったが、私達は意地でもそれを認めなかった。
畑さんは最初に総務課に配属された。
新人はまず定型業務を一通り学んでから営業部門または管理部門へ異動する流れだった。
昼休み、
「畑さん、こんな雑用するために入社した訳じゃないって同期に愚痴っていたらしいですよ」
私達の報・連・相は完璧だ。
畑さんが入社して良かったことを上げるとすれば、つかず離れずだった私達3人がグッと仲良くなったことだろうか。
「へえ、バカにしている雑用もミスる癖に」
「書類紛失騒ぎ起こしてみんなに迷惑かけたの、誰だって話よね」
「意味なく20分くらい離席してトイレや更衣室にいるじゃないですか。注意したらそれからずっと無視ですよ、私のこと」
2.新人、管理課に異動
畑さんが管理課へ異動して2週間後、畑さんの新しいOJTリーダー
「ごめん、ちょっと聞かせて。畑さんて総務課ではどうだった?」
山際さんの同期、
「え? もうなんかやらかした?」
「
私達は口々に「もちろんうちでもミスの連続」「仕事以前に常識がちょっと」「でもね、休暇とか権利についてはものすごく詳しいの」
私達3人と山際さんは『畑、被害者友の会』を結成した。
3.新人、新章突入
『畑さんは仕事ができない』ということは早い段階で周知の事実となった。
すると畑さんは『仕事ができないのは能力が劣るからではない、体調が悪いからだ』にシフトするようになったらしい。
みんなは仮病として相手にしていないと、山際さんは言った。
症状の定まらない体調不良で頻繁に休むのだが、だいたい前日にフラグがたつので、山際さんは畑さんの行動が読めるようになったらしい。
「
「わざとらしいため息連発。どうしたのって聞いてもらいたいんだろうな」とか。
「もう畑さんの唯一の理解者じゃん!」
江藤さんの軽口に山際さんは
4.新人、逆パワハラをする
畑さんは簡単に休むのだが、そのしわ寄せは当然の如く周囲の人間に及んだ。
引き継ぎ無しでシステムに交渉記録も残さず休むので、お客さんとの約束が守れずクレームが多発したようだ。
「畑さん、今抱えている案件引き上げるから全部出して」
「だって口元
いつの間にか安斉課長も『畑、被害者友の会』に加入していた。
「帰りに『この仕事終わりませんでした』って堂々と持ってくるんだよ。どうして終わらなかったのって聞くじゃない、当然。そうするとさ、泣くんだよ。俺、言い方キツい?」
「課長は全然キツくないです」
「昨日、真剣になに見ているのかなって覗いたら、パワハラ通報窓口の連絡先だったんだよ……」
ああ、確か畑さん、そういう方面だけは熟知していた。
「課長、気にしない方がいいですよ」
「なんかさ、パワハラって上の人が下の人にっていうイメージだけど、逆もあるよね。下からのパワハラ。これだよ。今だよ。メソメソ泣かれるとホント困る。畑さん被害者面しているけど、加害者だよ」
独身で優しい性格の安斉課長は、畑さんの対応に苦慮し心を痛めていた。
5.新人、休職する
畑さんが休職することになった。
「前日に挨拶に来たのよ。『ドクターストップがかかって、鬱でしばらく休むことになりました』その時の畑さん、再現ドラマの安い女優みたいな演技って言えば伝わるかな」
私達はいきり立った。
「なにがドクターストップだ。偉そうに!」
「鬱? 私の知っている鬱と違うんだけど」
「メンタル最強のくせに!」
畑さんが休職して10か月が経過した頃。
平常運転に戻った安斉課長が、
「みんな朗報。畑さんが退職することになった」
「あ、よかったじゃないですか」
「それがさ、結婚退職なんだよ」
「結婚!?」
「鬱で休職中に?」
最後にひと盛り上がりあったけど、被害者友の会はこれで解散か。
……あれ? 何故か、ちょっとだけ変な感じ。みんなも微妙な顔をしていた。
私達、畑さんというコンテンツを楽しんでいたのかも。