プロット【エピソード1:靴箱の国と約束の靴】
文字数 3,772文字
靴屋の娘アルクは、ちょっぴりドジで方向音痴な小学4年生。
教室から体育館への移動でさえ迷子になってしまう方向音痴っぷりに、アルクはいつもクラスのみんなにからかわれていた。
ある日の下校中、雨が降りそうな天候に近道をしようとしたアルクは迷子になってしまう。こんな時アルクはいつも「靴の妖精さん」にお願いをする。
「靴の妖精さん、靴の妖精さん、わたしを家まで連れてって…」
アルクは小さい頃、夜中に自宅の靴屋で優雅にお茶会をする2人の靴の妖精を見たことがあり、以来ひそかに妖精の存在を信じていた。
すると、背後で足音が聞こえた。振り返ると、馬のような小さな耳としっぽの付いた黄色のスニーカーがピョンピョン道を歩いている!?きっと靴の妖精に違いない!と慌てて追いかけるアルク。不思議な靴の後を追って辿り着いた場所は、なんとアルクの自宅だった。黄色のスニーカーはアルクの自宅(靴屋の店内)へ入っていくと、今は亡き靴職人のおじいちゃんが作ったヘンテコな靴たちが収納されている大きな靴箱の中へと姿を隠した。しかし扉を開けても黄色のスニーカーの姿はない。アルクは靴箱の奥まで手を伸ばし、体を乗り込み、どんどん奥へ奥へと進んでいき、気付くとそこには…靴の妖精たちが暮らす靴箱の国が広がっていた。
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【承】
目の前に現れた、まるで西洋の図書館のような豪華なアンティーク調の世界に驚くアルク。図書館とは違い、本棚ではなく靴棚がズラリと並んでおり、棚の中ではいろんな靴たちがおしゃべりをしていた。
そして、呆然とするアルクの前には優雅にお茶会をする2人の靴の妖精がいた。それはアルクが小さい頃に見たあの妖精たちだった。やっぱり夢じゃなかったんだ!と興奮するアルク。
「アラ?どうして靴箱の国に人間がいるのかしら?」
そう言ったのは、銀色のハイヒールを履いたキレイなお姉さんの姿をしたお兄さん《ロード》。
「アルクちゃん、何かご用かな?」
赤いレインブーツを履いたフリフリのロリータファッションに身を包んだお姉さんは《アイリス》。
”靴箱の国”?どうして私の名前を知っているの?
すると、ロードとアイリスは、ここが靴箱に収納された靴の妖精たちが集う「靴箱の国」であること、2人はアルクが産まれる前からずっと、アルクの実家の靴屋を守っている靴の妖精だということを教えてくれた。つまりアルクのことはオムツを履いていた時から知っていたし、今でもアルクが学校に行っている時間は、アルクの部屋でお茶会をしている時もあるようだった。
アルクは2人に黄色のスニーカーを追ってここに辿り着いたことを説明した。しかし、妖精の国に人間が立ち入ることは御法度。アルクは早く帰るよう急かされる。
「アタシたちが人間を連れ込んだと思われたら迷惑なの」
「バレたら女王様に怒られちゃう!」
仕方なく帰ろうと思ったその時、黄色のスニーカーがお茶会のテーブルの上をドタバタ走り去った。テーブルの上のお菓子は粉々に踏まれ、白いテーブルクロスに紅茶が染み込んだ。たちまちお茶会が台無しになり激怒するロード。
「絶対許さないわ!早く捕まえなさい!アンタの靴でしょ!?」
(早く帰れと言ったり、捕まえろと言ったり、ワガママだな…ていうか別にわたしの靴じゃないんだけど…)と思いながらもしぶしぶ追いかけようとアルク。しかしここでアルクの方向音痴が炸裂。見かねたロードと笑い転げるアイリスと共に、三人は黄色のスニーカーを追いかけ始めたのだった。
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【転】
3人が黄色のスニーカーを探していると、何やら遠くに人だかりができていた。
物陰に隠れて聞き耳を立てると「暴れまわる黄色のスニーカーが、女王様の顔を踏んづけた」とかで、これから裁判が行われると騒ぎになっていた。大変!助けてあげなきゃ!と思ったアルクとは裏腹に、
「じゃあアイリスたちが捕まえなくても処罰されるね!一件落着♪」
解散、解散、と帰ろうとするロードとアイリス。処罰ってなに!?助けてあげようよ!と引き留めるアルク。すると押し問答している3人に気づいた他の妖精たちに「妖精の国に人間がいるぞ!」「あの2人の妖精が人間を連れて来たに違いない!」と捕まってしまう。
女王様の前へ突き出されたアルクたち。黄色のスニーカーも捕獲されたようで、アルクの隣でぐるぐる巻きにされていた。現れた女王様はとてもかわいくキレイだったが、顔の真ん中にクッキリと靴跡がついていた。そして1人と3足の裁判が始まった。
アルクについて
妖精の国の存在を知られてしまった人間をどう処罰するか
ロードとアイリスについて
妖精の国に人間をつれてきた罪の処罰(免罪)
黄色のスニーカーについて
女王様の顔面を踏んづけた罪の処罰
始めに黄色のスニーカーの裁判が始まった。どうやら黄色のスニーカーは、まだ履き主(人間のパートナー)がいない靴のようで、誰にも履かれない悲しみから暴れていたことが判明。
「履き主のいる靴を妖精が隠すことは許されませんが、履き主がいないのなら、この靴がいなくなったとしても困る人間はいないでしょう。永遠に開くことのない靴箱に閉じ込めてしまいなさい!」
それを聞いたアルクは「ちょっと待ってください!」と声を上げた。
「この靴に履き主がいれば、靴箱に閉じ込めたいはしませんか?」
そして、アルクは黄色のスニーカーに「あなた、私の靴にならない?」と尋ねた。嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねて応える黄色のスニーカー。そしてそれは不思議なことに、まるでアルクの足のサイズを測ったかのようにピッタリの靴だった。
暴れ回っていた靴を見事に履きこなしたアルク。それを見た女王様は「あなたには靴使いの素質があるかもしれません」と言った。「靴使い」とは、靴の妖精と対話ができ、ピッタリの靴と履き主をつなぐことができる人のことをそう呼ぶらしい。
そして女王様は黄色のスニーカーに魔法を掛けた。スニーカーの側面に3つの星マークが現れる。靴使いにふさわしい良い行いをすると星に光が灯り、全ての星に光が灯った時、一人前の靴使いとして認められるらしい。
こうしてアルクは「立派な靴使い」になることを条件に、ロードとアイリスはアルクが立派な靴使いになるための「見届け人」になることを条件に、黄色のスニーカーには履き主が現れたことで、みんな無罪放免となり、アルクたちは家へ帰ることになった。
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【結】
ロードとアイリスと共に靴箱の国から自宅へ戻ってきたアルク。
靴箱から出て立ちあがろうとしたアルクの足下をみて驚くロード。
「ちょっと待ってその靴、ジジイの作った靴じゃない!」
黄色のスニーカーの靴底に刻まれたサインを見たアイリスもハッとして、3人は互いの靴底を見せ合った。3人の靴底には同じサインが刻まれていた。
つまりこの3足は同じ人が作った靴ってこと?”ジジイ”って誰?
すると「どこ行ってたの、アルク」と背後からお母さんが現れた。離れて暮らしているおばあちゃん(アルクのお母さんのお母さん)も来ていたらしく、お母さんとおばあちゃんはアルクのそばまで来た。どうやらお母さんとおばあちゃんにはロードとアイリスの姿は見えておらず、ただのハイヒールとレインブーツに見えているみたい。
するとおばあちゃんが黄色のスニーカーを履いているアルクを見てビックリした。
「どうしてアルクがその靴を?明日渡そうと思っていたのよ。」
明日はアルクの10歳の誕生日。実はこの黄色のスニーカーは、おばあちゃんが明日アルクにプレゼントしようと思っていた靴だったらしい。そしてそれは、アルクが産まれる前に亡くなった靴職人のおじいちゃんが「孫が10歳になったら渡してほしい」とおばあちゃんに預けていた特別な靴だったらしいのだ。
「明日渡そうと思って準備をしていたら、急に箱の中から靴が消えて…ずっと箱の中に入れたまま誰にも履かれないもんだから、自分で履いてくれる人を探しに行ったのかと思っていたのよ。それで、新しいプレゼントを買いにお母さんに相談しに来たところだったの。」
元舞台女優のおばあちゃんが立てたファンタジーな仮説はあながち間違っていなかった。それからお母さんは、アルクの両隣にいるロードとアイリス(ただのハイヒールとレインブーツに見えている)を見て「それにしても懐かしいわ」と言った。
「これはね、靴職人だったおじいちゃんが、おばあちゃんとお母さんにプレゼントしてくれた世界にひとつだけの靴なんだよ。」
お母さんは、銀色のハイヒール(ロード)はおじいちゃんが妻(アルクのおばあちゃん)にプロポーズのときに贈った「誓いの靴」であること、赤いレインブーツ(アイリス)はお爺ちゃんが娘(アルクのお母さん)の18歳のときに贈った「愛情の靴」であることを教えてくれた。
つまり、ここにある3足は全ておじいちゃんが大切な人のために作った靴で、ロードとアイリスはおじいちゃんが作った靴から産まれた靴の妖精で、だからアルクが産まれる前からこの靴屋を守っていたのか、と合点がいったアルク。
こうして、靴の妖精ロード、アイリスと、靴の妖精が見えるようになったアルクの立派な靴使いになるための不思議な日常が始まったのだった。
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