3。青吾~Seigo~②

文字数 1,231文字

3。青吾~Seigo~②

この合宿のような留学は、“語学に親しむ”というよりは異国の地で“自分と向き合う”という感じだ。異文化交流のための現地学生は自分たちよりもずっと日本語を使おうと努力していて、こちら側が英語を使わなくても、会話が成立した。学ぼうとする姿勢とか機会を大切にしようとする意欲が強いように感じた。
食事後の初めての交流会では、構内を案内してくれている時にひしひしと感じた。
できるだけ日本語で説明しようとしている。相手を見て、感動をし、自分の努力の足りなさ具合に恥ずかしさを覚えた。
自主性を重んじる校風がよく伝わってくる。自主性とは聞こえはいいが、当人にやる気がなければ、ただ時間が過ぎていくだけだということだ。差し出されたチャンスを自分のものに出きるかどうか、自分次第なのだ。
面白いが、シビアだ。
ひととおりの構内の説明が終わり、ゲームをするために講堂へ移動した。
その際、後ろの方でなにやら言い合いが始まっていた。

「知らないですよ。何?千夏人先輩、私の事、気になるんですか?」
「失礼な事って言ってたよな?シスイに何かした?」
「え?……してないですよ」
おっとー……。千夏人とリラじゃないか…、こりゃ何かあったな~。
「……そう」
千夏人はそう言うと、視線をあげキョロキョロと回りを見渡す。
おっつ……目があった。
「青吾ー。一緒に行こうぜ」
「え、先輩!私と……」
「リラの友だち、あそこでまってるじゃん。行った方がいいよ」
千夏人はそう言うと、俺のところに来る。
「おモテになられて……」
「うるせえ…」

ともに移動しながら、講堂に入った辺りで朋之祐と合流する。
「おう、はぐれたかと思ったわ」
「ちゃんとはぐれてたよ、朋」
「ええ~…」
悪びれない朋之祐をよそに、千夏人に話しかけた。
「千夏人、何かもめてたね」
「ああ……さっきのか。あそこに青吾がいてくれて良かったわ」
「何だったの?」
「え、ああー……、ここに来る前にさ、心澄と話してたんだ」
「心澄ちゃんと?」
「そう。そしたら……」
「リラちゃん、来ちゃったか~」
「そう!って、何で分かるの、朋之祐」
「俺、分かるの、そういうこと。で?」
チャラいが、場を回すの上手いなあ、朋。
「で、お互い知ってるみたいな感じだったから、変だと思ったんだけど。で、そこにさっき心澄を名指ししてた現地の学生が“失礼な人だ~”って、リラを指してたから、何かしたのかと…………」

ああ~……、あれか。

俺と朋之祐は思い当たる。もちろん顔も見合わせてしまう。そして、気付かれる。
「何か知ってるな…?」
「まあ……あれかなってのは」
「朋之祐……」
「ええ~俺が言うの~? 別にいいけど…。ここに到着したときにレストラン前でリラが心澄ちゃんにぶつかって、シスイちゃん、転びそうになったんだよ」
「はあ?!
「まあ、正確には、近くにいた小学生を庇ってだけどね」
俺の補足説明に、はあ…っとため息をつく千夏人。
「想像できる……」

分かる……

「もう…目が離せねえな……」

それも分かる

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