武士とスライム 其の一
文字数 869文字
スライムと思わしき物体は、背を向けたまま応えない。
昼下がりの草原であった。風がゆっくりと頬をなでる。
勇者は怪訝そうに眉をつりあげた。
勇者はあふれんばかりの勇気を抑えながら、まずは冷静かつ沈着に、この状況を把握してみようと試みた。
大丈夫だ。勇者の力を見せつけるのはその後でも遅くはない。
まず、スライムが勇者の問いに応えなかった。
ここまでは間違いない。
現段階で導き出される推測は、5通りだ。
1・このスライムは勇者を恐れるあまり、シカトを決め込んだ。
2・このスライムには聴覚が無い。因って、勇者の問いが全く聞こえなかった。
3・このスライムには言語能力が無い。よく見ればうっすら透明だし、脳もないのでは?
4・死んでる。
5・このスライm
勇者は厳しく叱責した。無論、この粗忽者のスライムにである。
粗忽者はようやくそこで振り向いた。
否――違う。
勇者はありったけの声をふりしぼって叫んだ。
恐るべきことが起こった。スライムは回転を活かして自分の名を連呼する事によって、
あたかも扇風機の前であ~…と、やった時のような特殊効果を演出したのだ!
こうする事によって勇者の脳内に「スライム」という存在を強烈に印象づけ、アピールすることに成功したのである。
これにはどういった心理的作用があるのだろうか。筆者は知らない。
ようやくスライムの回転が止んだ頃、
勇者は先ほどとは打って変わって、がらりとくだけた調子になって話しかけた。