武士とスライム 其の一

文字数 869文字

おぬしが、スライムであろう
…………。
スライムと思わしき物体は、背を向けたまま応えない。

昼下がりの草原であった。風がゆっくりと頬をなでる。

勇者は怪訝そうに眉をつりあげた。
(こやつ……わざわざ拙者が聞いているのに……)
勇者はあふれんばかりの勇気を抑えながら、まずは冷静かつ沈着に、この状況を把握してみようと試みた。
大丈夫だ。勇者の力を見せつけるのはその後でも遅くはない。
まず、スライムが勇者の問いに応えなかった。
ここまでは間違いない。
現段階で導き出される推測は、5通りだ。
1・このスライムは勇者を恐れるあまり、シカトを決め込んだ。
2・このスライムには聴覚が無い。因って、勇者の問いが全く聞こえなかった。
3・このスライムには言語能力が無い。よく見ればうっすら透明だし、脳もないのでは?
4・死んでる。
5・このスライm
如何にも、私がスライムだが?
おいおい、まだ5番目が出ていないじゃないか。
こういった不具合が起きぬよう、事前に5通りと申しておいたであろう
たわけめ
勇者は厳しく叱責した。無論、この粗忽者のスライムにである。
…………。
粗忽者はようやくそこで振り向いた。
否――違う。
こやつ、振り向きざまの反動を利用し、はげしく回転しておるゥーーーーーーッ!!
勇者はありったけの声をふりしぼって叫んだ。
私がスライ……う、私がライムだ。スライムである私に、何か?
恐るべきことが起こった。スライムは回転を活かして自分の名を連呼する事によって、
あたかも扇風機の前であ~…と、やった時のような特殊効果を演出したのだ!
こうする事によって勇者の脳内に「スライム」という存在を強烈に印象づけ、アピールすることに成功したのである。
これにはどういった心理的作用があるのだろうか。筆者は知らない。
…………。
…………。
ようやくスライムの回転が止んだ頃、
勇者は先ほどとは打って変わって、がらりとくだけた調子になって話しかけた。
見事だ。あまりに見事な回転であった。おぬしがそれほどの兵だとはこの勇者、ついぞ知らなんだわ
え?
は?
…………。
…………。
…………。
…………。
おまえ誰だ
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登場人物紹介

武士
・魔王討伐の勇者に選ばれた、誇り高き武士
・たけしではない
・アイコンが無かったので一番それっぽいのにした

スライム
・町を出てすぐ会えるアイツ
・クソザコ
・アイコンが無かったので描いた

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