第1話

文字数 708文字


遺品

この頃 ネットオークションで
しきりと絵画とか古本を買うようになった
やはり コロナと関係があるのだろうが
これによって確かに私の生活は一部変わった
今では居間のぐるりが絵画に囲まれている
中にはフランスからやってきた物もある

そんな私を見て妻が云った
どこの誰が持っていたものなのかも知れず
悪いものでも憑いているかもしれず
少し気持ち悪くはないだろうか と
そう云われると確かにその通りで
私が買い集めた少なくない古本や絵画は
多分 多くが遺品整理などで売りに
だされたものであろうと思われる
なるほどそういう見方もあったかと思った
がそこで納得するのも癪なので 絵画や
骨董というのはその品物のそんな過去も
含めて一緒に引き受けるものなのだと
偉そうな理屈で反論した およそ名画と
名がつくものほど強烈な過去を引き摺って
いる筈でゴッホの絵なんてその典型だ と
そうは云ったものの以前に購入した本の扉に
〇〇病院に入院中にどこそこの誰かから
送って頂いた本と達筆で記されているのを
目にした時は流石にいい気持ちはしなかった

しかし ちょっと考えてみると
我々の目の前にあるものはおよそ全て
過去の死者が残してくれたものばかり
ではないかということに気づいた
田舎のちょっとした道だって田んぼだって
都会にある無数のビルや大小の橋だって
今は亡き誰かがこの世に残してくれたもの
ではないのか それを生きている私たちは
それを残してくれた死者のことを思うこと
もなく毎日何気なく利用させて頂いている
文学や絵画だって全くそうではないか
いや それどころか 私たちのこの体と心
自体がそうではないか 遠い遠い死者たち
から今に引き継がれてきた命そのものが
かけがえのない遺品ではないだろうか
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