16話:ランクDダンジョン「地下ネズミランド」ボス:『キングラット』
文字数 3,077文字
人間であること。
加勢しようとしていること。
こっちが4人であること。
間違えて敵と思われたら一瞬で殺されかねない。
当たり前のようだが、歓迎はされていない。
楽勝だったなとみんなで喜んでいる。フェリルも安心したように笑っている。
それに従ったオーラは色を強い赤の暖色に変えた。
そしてオーラは形を変え、先の戦闘以上の濃度で4人に向かい伸びていった。
すると三人の体からオーラが激しく立ち上り、今までで最高の高ぶりを発揮する。
フェリルはこっちをみて不思議そうにしていたが、自分に対しても何か違和感を感じたらしく首をひねっている。
シューマの能力は内側から作用してるみたいだからな。
まず相手の内側に入らないといけない。
拒絶心が強いと効かないんだと思う。
おいらたりは初対面でいきなり乱入してきた輩だ。心を許すなんてできるはずないんだな!
それよりも相手はDランクの変異ねずみなんだ!気を抜いたら死ぬんだな!
闘技を出し惜しみしたらダメなんだな!
付随するイメージは『あれっ実際こいつらと戦ってみたら案外弱いじゃん』だ。
そして、その指向性攻撃的オーラを敵に向かって高速で伸ばし突き立てようとした。
そんなかかしであたらないはずがない。
スピードがついて威力があがっていた矢印は変異ねずみの前の不可視の壁に、何の妨害もなく突き当たり小さな穴を穿った。不可視の壁がひび割れ放射線状にクモの巣が張る。
突き穿った矢印はそのまま変異ねずみに突き刺さり、寒色のオーラで敵を内側から浸食する。
変異ねずみが危機感を帯びた鳴き声を上げる。
相手の持つ物理的生命エネルギーを斧の先端のみ無効化して相手をただの肉と認識させる。
相手の防御力を減らした状態で攻撃ができるという業だ。
いくらDランクの魔物が鋼鉄並みの硬度を持っていようとも耐えられたものではなかったらしい。
クラークの攻撃範囲前方2メルトに入っていた敵は真横真っ二つに切り分けられた。
鋼鉄の鎧を装備したねずみの騎士であっても、盾を持ったねずみの騎士であってもクラークのまえではとさつされる肉でしかなかったらしい。
あたりにおびただしい血がブチまかれる。ずれた個所から中身がこぼれだす。
慣れたとはいえ、気分が悪くなるくらい気持ち悪い。
次の瞬間地面をえぐり、瞬間にトップスピードを発揮。
クラークを通り過ぎ、残り三人に突っ込んできた。
シューマたち四人の視覚神経が認識し脳が運動神経に命令する以前にもう目前に来ていた。
エディは自らに向かって突っ込んできた敵が攻撃の射程圏内に入った時に、厳しい訓練により覚えこませておいた動きを自動的に行った。
大上段から剣をたたき下ろし、地面へと押しつぶす。
剣圧により数体が同じく地面に落しつけられる。
それは余りの槍の速さにそう錯覚してしまうからだ。
闘技「槍雨」
全身を槍を繰り出すためのベストの状態を作り出し、実力以上の高速で繰り出す闘技。
槍さばきの技術に依存するため、威力は使用者しだいだが、高い能力を持っていた場合、そこは完全なる「死の間」となりうる。
槍の先端付近の空中で何匹もねずみが浮いたままになっている。
よく見ると、次から次へとアクセルラットに心臓を中心に穴があいていく。
空中に縫いどまっていたのだ。
2種の後ろで待機していたデスラットは躊躇したように急制動した。
どうみても危険な領域に踏み込むことに本能が拒絶したのだろう。
相手の攻撃をまずくらわない。それは鉄則であるからまわりからすると魔物を一方的に殺しているように見えるかもしれない。
だが、当人たちからすると、少しも気を抜けない、キリングフィールドだ。
戦闘がひと段落すると四人の体中から脂汗がどばっとあふれていた。
しかし、シューマはできるだけやりやすいように、フェリルの敵にも寒色のオーラの槍を突き立てていった。
そこには「なんで」と「どうやって」が等分にふくまれた胡乱下な瞳があった。
今いる下水道の広い空間に向けて、奥から何か、大きなモノがドシンドシンと近づいてくるのが見えた。大きな……ねずみ……?