17話:銀狼の姫
文字数 2,266文字
そもそもダンジョンとは魔物濃度がある一定を越え、その領域が人間のものでなく、魔物のものと世界に判断されたときに発生する現象だと言われている。
その魔物が住みやすい環境に作り替えられ、マグマの海や瞬間冷凍の世界など、常人には生存するだけでも難しい極限状態になることもある。
そしてそのダンジョンと呼ばれるものに必ずいるのがボス、主、要と呼ばれるダンジョンの形成主である。
ダンジョンはそれだけで人間世界を蝕む障害だが、ダンジョンを消滅させるには「主」を倒すしかないのだ。
ほぼすべての主はその領域で一番強く、一番タフで、一番厄介なのは常識である。
四人とフェリルの体が振動でぶるぶると震えた。
出口がふさがれた形になる。
逃げ道がふさがった。
だから、一度意見を聞きたかった。
あの大きさのネズミでも倒せる可能性があるのならボスに火力を集中させる方法が産まれてくる。
空間の中心にシューマ達が集まり、その周りを円のようにネズミに囲まれている形になっている。
オーラがフェリルに浸透していく。
今回は強くは拒絶されなかった。
でも敵の場合は精神の守りが硬い場合があるから近くでぶち当てないとだめだと思う。
だからフェリル。まずは僕がキングラットに弱体化をかけられるように援護してくれっ!
その這いあがってくる何かが膨らみきれば気を失ってしまう。
そして目が覚めると、回りの環境を破壊しつくしてしまっているのだ。
これにより、人との関係をまともに結べたことなどなかった。
どれだけそれを望んだとしても。
そして今回。
数日前、馬小屋のわらの寝床で浅い眠りに落ちていたフェリルは内側からの圧迫感を感じた。嫌な予感を覚えたフェリルは、即座に下水道に潜り、身を潜めたのだ。
Dランク用下水道なら人はほとんどいないから人間に危害を与える可能性が低くなると考えたから。
嫌な気分を解消するために、がむしゃらに変異ねずみを倒し続けていたが、多数のネズミに囲まれ、嫌な気分の内圧も限界の境界線が見えてきてしまったとき。
四人の男たちが乱入してきたのだ。
フェリルが暴走すれば一瞬で細切れにされてしまうだろう彼らはその時のフェリルにとって邪魔者でしかなかった。
近づかないなら無視して離れるつもりだった。
いくら爆発しようとしても破裂しそうにない安心感。
生きてきたなかで1,2を争うほどの安定感。
それを今、数年ぶりに感じているのだった。
行き場のない開放感がフェリルを襲う。
何時発狂するか分からない自分に対する恐怖、悔しさ、悲しさが反転する。
もう、おかしくなったわたしが気味の悪い化け物として見られないかもしれない!
内圧の支配からの脱却、自我の独立、自己の確定。
求めたものが今、目の前にある。わたしはわたしとして生きられる!
これだけ自由を感じるのは初めてかもしれない。
フェリルは無性に走り出したくなった。
何かをしていないと自分を押さえられそうにない。
目の前には丁度いい的があった。
シューマが倒してほしそうにしているアレ。
おっきなおっきな肉袋。
その余りの速さゆえに、遠くから見ていても姿がぶれて見えるほどだ。
フェリルはネズミの王に切り裂きかかった。
フェリルの目はいつの間にか真っ赤に染まり、口は半月のように弧を描いていた。