第11話(4)リズム隊、奮戦

文字数 1,901文字

「さあ、三人とも早く先に行ってちょうだい」

 幻が甘美、現、陽炎を促す。

「し、しかし……」

 現が躊躇う。

「ここはリズム隊に任せて……」

「分かりましたわ! ご武運を!」

 甘美が頷いて走り出す。極楽たちの脇を走り抜けていく。

「よっしゃ!」

 陽炎もそれに続く。

「お、おい! ま、任せたぞ!」

 現が幻たちに声をかけて、甘美と陽炎の後を追う。

「ふっ……」

「え、えっと……」

「じゃあ、アタシも……」

 幻も甘美たちに続こうとする。

「い、いや! ちょっと待ってよ⁉」

 刹那が慌てて止める。

「ふふっ、冗談よ……」

 幻が立ち止まって笑う。

「わ、悪い冗談だな……」

 刹那が苦笑する。

「……」

「………」

 極楽と岩城が幻たちの方に向き直る。

「へえ、甘美ちゃんたちを追いかけるかと思ったけど……必ずしもそういう風には操られていないみたいね。あるいは余計な存在──アタシたち――を排除するようにとでも言われているのかしらね」

「そ、そうみたいだね……」

「…………」

 極楽がゆっくりと迫ってくる。

「おかっぱ頭のお嬢様の相手は刹那ちゃんに任せるわ」

「ええ?」

 刹那が戸惑う。幻が微笑む。

「得意でしょ? おかっぱ頭と戦うの」

「得意も不得意もないよ! っていうか初めてだよ!」

 刹那が声を上げる。

「アタシはあの素敵な執事さんと楽しませてもらうわ」

「え? え?」

「引き付けるから、よろしく!」

 幻がその場から離れる。岩城がそれに反応して、追いかける。

「そ、そんな⁉」

「……!」

「うわっ!」

 極楽が殴りかかってくる。刹那は咄嗟にしゃがみ込んでなんとかそれをかわす。

「……………」

「ま、まぐれでかわせた……」

「………………」

「よ、よくあれを何度もかわしたな、甘美……」

「…………………」

「うん?」

「………!」

「どわっ⁉」

 極楽が踏みつけてきたので、刹那は横っ飛びしてかわす。

「!」

 極楽の足が地面を砕く。

「あ、あんなのに踏まれたら、ヤバ過ぎるよ……」

 立ち上がりながら、刹那が後ずさりする。極楽が迫ってくる。

「……………………」

「ど、どうする⁉」

「………………………」

「あ、貴女は操られているんです! 正気に戻って!」

「…………………………」

 極楽が腕をゆっくりと振りかぶる。刹那は頭を抱える。

「ああ、説得は無理か! そもそも初対面だし! そんな相手に耳を貸さないか!」

「……………………………」

「やっぱりこれか! ~♪」

 刹那がベースを構えて演奏する。

「‼ ……」

 極楽が刹那の演奏を聴いて大人しくなる。

「トロイメライって言うくらいだからクラシックで操っていたっていう読みが……そこにクラシックとは真逆の曲調を聴かせて相殺を狙ってみたけど……上手くいった……」

 刹那がほっと胸を撫でおろす。

「さて……」

「…………!」

「ええっ⁉」

 岩城が銃撃してきた為、幻は大いに面食らいながら、物陰に隠れる。岩城は様子を伺う。

「………………………………」

「いやいや、銃はさすがに反則じゃないの?」

 幻が苦笑しながら、物陰から顔を少しだけのぞかせる。

「! !」

 岩城が銃を連射してくる。幻が物陰に再び顔をひっこめる。

「早撃ちは女に嫌われるわよ~」

「…………………………………」

「って、そんな冗談が通じる相手じゃないか……本当にどうしようかしら……ドラムセットは一応夢世界に持ってきたけど……注意を引く為に走ったから置いてきちゃったわ……」

 幻はさきほどまで自分が立っていた場所に目をやる。それから岩城に視線を戻す。

「……………………………………」

 岩城が銃を構えている。

「銃を持つ姿もなかなか様になっているわね……お金持ちのお嬢様の執事なら、意外と汚れ仕事なんかも秘密裡にこなしていたりするのかしらね~」

「! ! !」

 岩城が再び銃を連射する。幻が耳を塞ぎながら声を上げる。

「はいはい! 執事さまへの偏見でした! 大変失礼を致しました!」

「………………………………………」

「こちらの手持ちはこれか……」

 幻がドラムスティックを二本取り出す。

「‼ ‼」

「って⁉ 銃撃の威力増してない⁉ しょうがないわね!」

 幻が物陰から身をさらす。岩城がすかさず連射する。

「‼ ‼ ‼」

「こうなりゃヤケよ! ~~♪」

 幻が壁や地面をドラムセットに見立てて、演奏する。

「⁉」

「あ、あれっ⁉ 銃弾が逸れた……ひょっとして音圧のおかげ⁉ それなら! ~~♪」

「……⁉」

「音の圧で吹っ飛ばせた。頭を打ったみたいだけど……どうやら大丈夫そうね。これで正気に戻ってくれたら、非常に助かるのだけど……それにしても……」

 幻が倒れ込んだ岩城の顔をまじまじと覗き込む。安全確認の為で他意はない。恐らく。
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