#2

文字数 1,769文字

 ゴトゴト車が揺れている。

 舗装されていない道路をタクシーに揺られながら僕と先生はパーティが開催されるという館を目指していた。

「先生、これから行くのはどんなパーティなんですか」

「いわば追悼会かな。学生時代に先生がなくなるという事件があってね。その先生を忘れないよう
にって同級生が計画してくれているのだよ」

 無理言ってついてくるべきじゃなかったかもしれない。先生の大事なパーティに割り込むべきではなかったかもしれない。そんなことを考えて表情が少し暗くなっていたのだろうか。それを読み取って先生は言った。

「大丈夫だよ。そんなに気負わなくて。ほんと同窓会みたいなものだから」
 その言葉に少し安心した。続けて気になったことを聞く。

「パーティの参加者の皆さんはどんなお仕事をされているんですか」

「うーん。確か、小説家とピアニストと大学の教授だったかな」
 先生の同級生たちだ。早く会いたいと胸を高鳴らせる。

「どんな方なんだろう」

「すごく個性的だよ」
 個性的とは。ますます楽しみになってきた。

 そうこう言っているうちに近くについたようだ。空は薄暗く、灰色の雲が一面を暑苦しく覆っている。

「雨が降りそうですね」

「帰る時には晴れてることを願うよ」
 山の中にあるものだから万が一土砂崩れなどがあると帰れなくなるのだ。そんなことがなければいいけど。

 タクシーを降りると、深い谷があった。

「ここからは歩きだよ」
 谷にかかっているつり橋を渡り終えると、森の中に広い館が見えた。

 ここは小説家をしている先生の友人に別荘らしい。こんなところに立てるなんてやはり、個性的な人らしい。

「広いですね」

「金持ちなんだよ」
 すこし笑ってそう言った先生は、珍しいヨーロッパ風のノッカーを使ってノックした。

コンコン

「はぁい」

 中から出てきたのは、どこかで見たことのある顔の二十歳くらいの女性だった。シャツに薄い緑のカーディガンを羽織っている。胸くらいまであるきれいな茶髪を後ろで束ねている。活発な印象を受ける明るい人だった。誰だろうか。思い出せない。

「やあ、岸野君じゃん」

「お久しぶりです。占部さん」

「ひさしぶり。ええと、隣にいるのは誰?」
 二人で懐かしい話が始まるかと思ったらいきなり話を振られたのでびっくりした。

「僕の助手の霧島君です」

「霧島涙唯です。ぼくが無理を言って先生についてきたんですが」
 失礼にならないよう慎重に言葉を選んで挨拶する。

「あたしは占部。占部炎華。小説家です。全然いいよ。いらっしゃい」
 快く受け入れられてほっとした。不快な思いをさせるのではないかと少し不安だったのだ。

「ありがとうございます。占部さん」
 占部さんに先導され、玄関を上がって廊下を少し歩くと、大きな吹き抜けの部屋に出た。

 館は外から見たよりずっと大きく感じた。その部屋の向かって右と左にそれぞれ、一階に三、二階に三、計十二の客室があるらしい。

 ホールに入ると二人が部屋の中央の大きなテーブルでトランプをしている。

「全員揃ったわよ」
 占部さんの声に彼らは振り向いた。

「おお。岸野君、それと、隣の方は」

「先生の助手の霧島です。よろしくお願いします」
 そう言って頭を下げる。

 ひとりはカッターシャツに黒いセーターというきちんとした身なりの男性だ。髪の毛はあまり整っていなかった。
 もう一人は灰色の少し大きなパーカーを着た男性。ラフな格好をしていて親しみやすそうだ。

「こちらこそよろしく。俺、橋谷晃(はしたにひかる)。晃は日に光って書くよ。職業はピアニストだ」
 パーカーを着た方の男性が軽く手をあげて言った。橋谷晃といえば世界的に有名なピアニストではないか。名前はよく知らないが外国の大きな賞をいくつもとっているはずだ。それに驚いているともう一人の男性も言った。

「ぼくは奈森怜です。大学の教授をしてます。よろしくお願いします」
 こちらは橋谷さんよりも幾分か老けて見える。同級生と言っていたから同い年のはずだが。

 それにしても世界的なピアニストに小説家、それから大学の教授というと岸部さんの周りにはすごい人がたくさんいたということがよく分かった。

 どんなクラスだったかすごく興味がある。もちろん聞きはしないけれど。
 そこから、ぼくは橋谷さんと奈森さんと先生と三人でカードゲームやオセロをしていた。本当に同窓会のようだ。
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