第16話

文字数 778文字

 大丈夫だから、お姉ちゃんが付いてるから。ほおら、元気になあれ、元気になあれ。二人は別れないよ、安心しな。お互いが格好つけてるだけだって。大丈夫、大丈夫。
「ちょ、止めろ! わざとやってるだろ」
「一度でいいからお姉ちゃんって呼んでみて!」
「助けて! こいつガチの変態じゃないか!」
 だが、トキコと言われたピンク髪も、ゴリラスペックの褐色肌も代金を置いて去ろうとしていた。
「まあ、なんだ。君も安心しなよ。レナさんに気に入られたらボーナス確定演出だから」
「あとは連チャンするよう、祈っています」
 レイジは一匹のケダモノとファミレスに残された。目を血走らせて口内に唾液をたぎらせてニチャニチャ喋る女から自らの貞操を守るために必死だった。必死でケダモノをお姉ちゃんとお姉ちゃんと呼んだ。

「あたしさ、新型コロナ全盛期に料理部に入部届出したんだ。先代の部長からも、何もやれないよって言われてたんだけど、運動も勉強も自信なくてさ、とりあえず席だけ置いといて、インスタばっかやってたの。で、アレンジレシピとか上げてたんだけど、なんかやりたいことと違うなって思ってて。そしたらヨッキちゃんが急にやって来て。うん、そう、上級生の教室にズカズカやって来て、原稿書いてくれませんか? だって。そんなまとまった文章なんて書けないよって言ったら、それでいいんだって。これから新しい大学生になって一人暮らしを始める人向けに書いてって。あたし半分馬鹿にして、美味しいハンバーグの作り方とか書いて、『ひき肉を買ってきた当日に作りましょう、作れないならやめましょう』とか書いて送ったら、すごく喜んでくれたんだ。トキコとアカネも焦げっ焦げのハンバーグの写真くれて。まだ残ってるよ、ほらほら。びっくりしたよ。びっくりするぐらい嬉しかった」
「あの、すみませんが、そろそろ頭なでるの止めてくれませんか」
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