第1話

文字数 1,250文字

 飲んだ時の締めのラーメンは美味い。
 実は山形県はラーメン王国だ。調べたところによると、山形県のラーメン消費量は日本1位である。また、2021年調べで人口10万人当たりのラーメン店舗数が最も多いのは山形県で57.92軒、2位は新潟県で37.73軒、3位は栃木県(37.13軒)、以下、秋田県(35.62軒)と続く。
 人口2万余人の庄内町とその周辺にラーメン店が24軒ほどある。中には朝ラーメンを提供する店もある。
 ところがだ。そのほとんどの店の営業時間が極端に短い。午前11時に開店して14時半には閉店、スープがなくなり次第閉店で実は昼過ぎには営業終了などの店が多い。夕方からも営業している店もあるが、午後8時過ぎには店を閉じる。
 庄内町で酒を飲んだ後、歩いて行ける範囲に営業しているラーメン屋はない。
 だから庄内では「飲んだ時の締めのラーメン」にはありつけない。

 そんな訳で、ある宴会の後、行きつけのお好み焼き屋の暖簾をくぐった。()()然々(しかじか)で「小腹がすいているので、何か焼けますか?」と大将に尋ねた。
 するとすかさず女将が答えて曰く、
 「なら、先生、ひっぱりく?」
 「…?!」
 ホント、庄内弁は難しい。

 正解は「それなら先生、ひっぱり(うどん)を食べるか?」である。
 ひっぱりうどんは山形県内陸(主に村山地方)の郷土料理の一つで、ゆでた鍋から直接うどんを引っ張り、特製つけだれにつけて食べる食べ方から「ひっぱりうどん」と呼ばれている。(←写真)

 冬の保存食の意味合いが強く、レシピは簡単だ。うどんは乾麺を用いる。つけだれは納豆に醤油を加えたものが基本で、女将は 納豆1パックに付属のタレ1袋 、サバの水煮缶 (60g)を1/2缶、そして小口切りした長葱にめんつゆを加えて出来上りである。(←写真はめんつゆを加える前)

 安価で手頃で栄養価が高い。納豆とサバの水煮の相性が想像以上によく、味にまろやかな旨味があった。
 女将が作ったひっぱりうどんを堪能した。
 「ご馳走様、美味しかったです。」

 「ひっぱりは内陸の食べ物で、庄内ではあまり食わんねえ。」
とは、常連客のコメントだった。
 私は庄内に住んでみて、山形県は出羽三山の一つの月山(がっさん)より内陸か日本海側かで文化が大きく異なるように感じる。例えば山形名物の芋煮も、内陸は牛肉を使った醤油系のすまし汁であるのに対し、庄内の芋煮は豚肉の味噌味で豚汁に近い。前任の神奈川県の病院に勤務していた時、神奈川の山形県人会に招待されたことがあった。山形県人が関東の神奈川で再会する。懐かしさに酒が入り盛り上がる。だんだん話題は出身地の話へとローカルになって行く。宴もたけなわになり花笠音頭が鳴り出す。芋煮ができる。芋煮は牛肉の醤油系すまし汁である。
 「これはの~、ホントの芋煮ではないの~」
 今から考察すると、あの人は庄内人だったのだろう。
 山形というお国自慢の中に、さらに細かく生まれ故郷自慢がある。
 素晴らしいと思うし、羨ましくもある。

 んだんだ。
(2023年1月)
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