岡崎庸道

文字数 8,818文字

ここは岡崎庸道さんの執筆スペース!
他の人は書き込んじゃいけないぜ!

雨が降り始めてきた。

降り始めの雨は、雨音という程の音は聞こえなかったけど、さっきまで夕日が差し込んでいた体育倉庫は、あっという間に暗くなった。

okazaki_t

わたしは心細さを押し殺すように、体育倉庫の出入り口に近づいた。

その扉に両手をかける。

がこっ、と鈍い音が鳴る。

okazaki_t

体育倉庫の扉はスライド式で、とても重い。

わたしの力では、開けるのがやっとという感じなのだけど、扉はびくともしない。

外から鍵をかけられているからだ。

扉の向こうから何人かの話し声が聞こえた。

その人たちに向かってわたしは声を振り絞った。

okazaki_t

「出して……ここから出してよ……」

「どうしてこんなことをするの?」
わたしが必死なのが面白いのか、扉の向こうからは、

okazaki_t

「くすくす」


と笑い声が聞こえた。

okazaki_t

悔しい、と思っても、わたしの命運は彼らに握られている。

彼らがなにをするか分からないから、不安なのだ。

わたしは彼らの言葉に耳を傾けていた。

okazaki_t

「なあ、知ってるか? こういう日には出るんだってよ」


と、彼らのうちの誰かが言った。

okazaki_t

(出る?) 


とわたしは思いながら、とくんと心臓が脈打つのを感じた。

「ミヨリさまだよ」

okazaki_t

「ミヨリさま?」

思わずつぶやいたわたしの声が、外に聞こえたのか、その誰かの声が一際大きくなった。
「そうだ。こんな風に雨が降り始めた黄昏時に、ミヨリさまはやって来るんだよ」

okazaki_t

「その場にいる人間を殺しにな」

okazaki_t

教室

okazaki_t

わたしは小さな悲鳴をあげ飛び起きた。


そこは教室で、今は授業中。みんなの視線が私に向いていた。

okazaki_t

「内藤ー。今は授業中だぞ」

という先生の声に、

「「「あはははは」」」


教室に笑い声が響いた。


okazaki_t

わたしは顔を俯かせる。耳の付け根まで赤くなっているのを感じた。

okazaki_t

キーンコーンカーンコーン。

okazaki_t

「なーに、またあの夢を見たの?」
「う、うん」
「もう、いい加減忘れた方がいいって。そりゃあ、不幸な事件だったと思うけどさ、ゆめゆめは運良く生き残ったんだし」
「そうだね」

「何の話だ?」

「秘密の話」
「んだよ、それ」
「いいから、男子はあっちいった」
「ひでぇ」

「ぷっ」


二人のやり取りにわたしは思わず吹き出した。

「2人とも、今日の部活は参加するんだろ?」

「どうする?」
「うん、いく」
「ゆめゆめが出るなら私も」
「久美は相変わらず内藤至上主義だな」
「ゆめゆめは私の嫁だからね」
「もう、久美ちゃんってば」
部室

okazaki_t

「じゃじゃーん! 今日用意したのは、恋占い~」

「なにそれ~」
「おいおい、恋占いっていったら、女子の定番だろ?」
「そうだけどさ。そういうのは、一人でやるか、女の子同士でするものでしょう? 男子と一緒にやるなんて聞いたことがないし、やりたくなーい」
「んだよ。そこが面白ぇんじゃねぇかよ」
「いやらしぃ~」

「いやらしぃってなんだよぉ。なあ、多々良、お前は興味はあるだろ?」

「そうだな」


といかにも興味なさそうに答えたのは、多々良君。

多々良君はさっきから、ミステリー小説を読んでいた。

ここにいる4人はオカルト研究会のメンバーだ。

恋占いをしようと言い出した今井くんが、オカルト研究会の部長。

本を読んでいる多々良君が副部長。

それに、久美とわたしを合わせた4人が全メンバーだった。

okazaki_t

今井君は、新しい占いや儀式みたいのをすぐに見つけてくる。

そうしては、今みたいにみんなでやろうと言い出す。

okazaki_t

多々良君はちらりとわたしの方を見た。


「内藤がいいと言うなら」

「熱いねぇ~。愛の告白か?」

「ああ、ぜんぜんそういうのと違うから」

「分かってる分かってる」

「それ、分かってるのと違う。ただ……内藤さんこういうの、あまり好きじゃないと思ったから」

「え?」
「確かに、ゆめゆめはこういうの苦手かも。さっすがよく見てる~」
「いや違うから……」
「で、どうしよっか? やめとく?」

「せっかく、今井君が用意してくれたんだもん。やるよ」

「そうこなくちゃ」

今井君は紙とえんぴつを取り出すと、何かを書き始めた。

大きな建物を二つ書いて、それぞれに校舎、体育館と文字を入れた。

それから何かを四つ取り出した。

okazaki_t

「この消しゴムがそれぞれお前達の分身な」

「なにこれ? これが消しゴムなの?」

それは靴の形をしていた。

okazaki_t

「見れば分かるだろ?」
「いやいや」

今井君はわたしたちに消しゴムを配った。

靴の形をした消しゴムはそれぞれ色がついていて、わたしには白の靴が配られた。

okazaki_t

「今配った消しゴムを体育館に置いてくれ」

「ここに置けばいいのか?」

「置いたわ」

「……」


みんなが消しゴムを体育館に置いていく中、わたしは紙に書かれた『体育館』という文字を見つめていた。

「内藤さん? どうかした?」
「……え? う、ううん」

わたしもみんなに倣って消しゴムを置いた。

4つの消しゴムが紙に『体育館』と書かれた場所に置かれる。

okazaki_t

「これから俺が二回机を叩く。その間、絶対に返事をしたらダメだからな」
「なにそれ~」
「いくぞ」

と言って、今井君は机を叩こうとした。

「ちょ、ちょっと待って!」

わたしは静止の言葉を投げかけていた。

「どうかしたの?」
「ご、ごめん……その、なんかいきなり過ぎると思って」
「ていうかさ、なんで恋占いなのに体育館なの?」
「それは俺も気になった」
「それなんだけどな。なんでも、恋を叶えてくれる『サヨリさん』っていう存在がいるらしいんだよ」

(え?)

不意に、ぞくり、と背筋に寒気が走った。

『サヨリさん』なんて言葉を聞いたことがないはずなのに、なぜか何処かで聞いたことがあるような気がした。

okazaki_t

「体育館に現れるらしくて、それには条件があるらしいんだよ。雨の降る夕暮れ時じゃないとだめらしい」
「天気予報晴れだよ」
「そうなんだけどな」

わたしは(でも、もし雨が降ったら)と頭の片隅で考えた。

すると、今井君が声をあげた。

okazaki_t

「おい見ろよ。外、曇ってきたぞ」
「うわっ、真っ黒な雲。こりゃ降るよ」
「好都合だ」
「でな、サオリさんが叶えてくれるんだと。恋する者同士を仲良くしてくれるらしい」
「えー、恋してなかったらどうなるの?」
「まあ久美には無縁の話だな」
「べー、私にはゆめゆめがいるもん」
「ゆりゆりの間違いじゃないのか?」
「もしかして、二回たたくのってさ。サオリさんが何かを叩く音何じゃないの?」
「その通りだ。で、それに答えなきゃいいってことだな」
「答えたらどうなるの?」
「そりゃ、もちろん、サオリさんがやって来て――」
(!!!!!)
「なぁんてな、実は俺もよく知らん」
「なぁんだ」

「じゃあ、叩くぞ」


こんこん。

「………」
「………」
「………」
「や、やっぱり、やめようよ……こんなこと」
「ゆめゆめ?」

「ごめん……」


わたしは部室を飛び出した。

帰り道

okazaki_t

遠回りしようか迷った。

雨が降りそうだったから、仕方なく決心する。


そこにあるのは、わたしが通っていた小学校だった。

その前を横切り、わたしは校舎の方を見た。

okazaki_t

四年前。

わたしは小学五年生だった。

その頃、わたしはクラスメイトからいじめを受けていた。

ある日、体育倉庫に閉じ込められた。

体育倉庫の鍵が掛けられ、外に出ることができなかった。

その時、丁度学校に通り魔が現れたのだ。

学校に残っていたクラスメイトは、全員殺された。

わたしだけが助かった。

okazaki_t

あれからすぐに廃校になった。

okazaki_t

わたしは家路を急いだ。

okazaki_t

「ここはどこなの?!」

さっきまで家に居たはずなのに。

お風呂に入って、ベッドに入るところまで思い出せた。

誰かにさらわれたんだろうかと考えて、わたしは自分の格好をみた。

とくに問題はなさそうだった。

okazaki_t

「誰かいるの?」

okazaki_t

薄暗がりから声が聞こえた。

わたしはその声に驚き、逃げようとした。

okazaki_t

「もしかして、みゆみゆ?」

okazaki_t

「え? その声は、もしかして久美ちゃん?」
「やっぱり、みゆみゆ。よかったぁ……」
「うん」
「ここってどこなんだろう?」

わたしは周囲を見渡す。

長い廊下に、たくさんの部屋。

「学校じゃないかな」

「でも、うちの学校じゃないよね?」
「……たぶん、わたしが通っていた小学校だと思う……」
「それって……」
「あの事件が起きた学校」

久美ちゃんが息を飲むのが分かった。

「どうして、そんなところにいるのかな?」

「分からない。でも、早くここから出た方がいいと思う」

「そうだよね? 出口は分かるの?」

「うん。わたしについてきて」

わたしたちは廊下を歩いた。

薄暗い廊下にわたしたちの足音が響く。

それ以外の音は聞こえない。

わたしたち以外には、誰もいないようだった。

やがて、階段にたどりついた。

okazaki_t

「ここを降りればエントランスにでると思う」

「よかった」
「久美か?」

okazaki_t

「きゃー!!!!」
「って、俺だよ、俺!」
「い、今井君……脅かさないでよ……」
「わりぃ。多々良もいる」
「よ」
「多々良君……」
「一体、なにが起こってるんだ?」

「分からない。でも、ここを降りれば出口なんだって」

「そうなのか? でも、どうして」
「ここ、ゆめゆめが通っていた小学校らしいの」
「内藤の……?」
「それより、早くでましょう」

「そうだな」

今井君を先頭に、階段を下りた。

そこはエントランスだった。

下駄箱が並んでいる。

今井君は下駄箱をつっきり、まっすぐ出入り口を目指した。

okazaki_t

「だめだ。開いてない」
「そりゃそうだよね」
「どうする?」
「蹴破ろっか?」
「緊急事態だし、仕方ないか」

その時、出入り口から空が見えた。

てっきり真っ暗だと思っていたが、茜色だった。


かと思えば、みるみるうちに空が暗くなった。

okazaki_t

「一雨来るな……」

「ねえ、多々良くんはどこにいったの?」
「え?」
多々良サイド

okazaki_t

今井たちがエントランスに向かって行く。

俺はその後を追っていた。

その時、廊下であるものを見つけて立ち止まった。

それは『白い靴』だった。

いや、違う。消しゴムだ。

今井がみんなに配った消しゴム……のように少なくとも俺には見えた。

俺はしばらく迷い、「ピックアップターン」の能力を使うことにした。

これは、落ちている者を持ち主のところへ帰らせる能力で、俺が魔人と呼ばれる存在であることの証だ。

『白い靴』の形をしたそれは、ズズズと動き出した。

『白い靴』をおうちに、広い空間に出た。
どうやらそこは体育館のようだ。
なぜその場所にと思いながら、俺は『白い靴』の後を追った。
『白い靴』の動きがぴたりと止まった。
そこは体育倉庫の前だった。
『白い靴』は体育倉庫に入ろうとするが、中にはいることはできなかった。
どうやら、持ち主はその中にいるらしい。

そこまでです!!

俺は体育倉庫の扉を開けようとした。


ガチャガチャ。

開かなかった。


が、相変わらず、ピックアップターンにより動き出した『白い靴』は中へ入ろうとしている。


中に人がいることは、たぶん間違いない。

見たところ、扉は外から施錠するタイプのようだ。

もしかして、誰か中に閉じ込められたまま出られなくなっているんじゃないか?

内藤夢サイド

okazaki_t

「ちょっと~ゆめゆめ、待ってよ~」

と声が聞こえたが、私は多々良くんを探しに引き返していた。


何だかよく分からないけど、嫌な予感がする……

一刻も早く多々良君を見つけなければ、という焦燥感を感じていた。

okazaki_t

「お前ら、ちょっと待ってくれ!」

鋭い声に、思わず振り向いた。


「何?」

「校内新聞が、貼ってあるんだ……」


「それくらい、珍しくもないでしょう?」
「それが、4年前の日付なんだよ……」
「え?」
「本当だ~どうしてそんな古い新聞が貼ってあるんだろう?」

「馬鹿、よく見ろ」
「馬鹿とはなによ~」
「4年前の新聞にしては、新しくないか?」
「うーん、言われてみれば?」
「ずっと、おかしいとは思ってた……」
「みゆみゆ?」
「だって、私の通ってた小学校って、既に廃校になってるはずだから……」
「ああ、そっか……でも、それならここって」
「もしかしたら……4年前の学校なのかも……」
多々良サイド

okazaki_t

俺はすこし迷ってから、扉をノックした。

すると、中から息を飲むような声が聞こえた。

更には、嗚咽を漏らすような声まで聞こえてきた。

その声から、中にいるのは女の子なんじゃないかと思った。

随分と怖い思いをしているのだろう。

早く助けてあげなければ。

だが、どうやって開ければいい?

扉は硬くて頑丈そうだ。

押し破るのは難しいだろう。

鍵を探すしかないか?

しかし、そんなものを到底見つけられるとは思えない。


そんなことを思っていると、俺の視界に、跳び箱が3組置いてあった。

ふと俺は思いついた。

もしかしたら、いけるかもしれない。

俺は跳び箱に向かって『ピックアップターン』と念じた。

すると、3組の跳び箱は一斉に体育倉庫に向かって、ずずず、と動き出した。


思った通りだ。

俺の『ピックアップターン』の能力は、落ちている者を持ち主の元へ帰らせる能力。

それが公共のものだったら、どうか?

あるいは、元の場所に戻るんじゃないか。そう念じてみたら、その通りに動いた。

重量感のある3つの跳び箱は、一斉に、体育倉庫に体当たりを始め、轟音を辺りに響かせた。

内藤夢サイド

okazaki_t

突然、何処かから物凄い音が聞こえた。

okazaki_t

「い、今のって……何の音なの?」
「多々良かも。でも、もしかしたら違うかも……」
「行ってみよう」
「ちょ、内藤?」
「私もいく!」
「ったく、仕方ねぇな」
多々良サイド

okazaki_t

目の前に、大破した跳び箱の姿があった。

体育倉庫の扉はびくともしなかった。

と思ったのだが、レールが外れていた。

勢いをつけて体当たりをすると、体育倉庫の扉は力なく倒れた。

俺は身を起こすと周囲を見渡した。
「………」
そこに居たのは、女の子だった。

女の子は怯えた目で俺を見ていた。

「大丈夫だ。俺は君を助けに来たんだ」
「え?」

と女の子は何かを言いかけ、慌てて両手で口元を抑えた。

まるで、何も話してはならないというかのように。

「しゃべりたくないなら、それでいい。とにかく、ここを出よう」

俺がそういうと、女の子はこくこくと頷いた。


近くから、誰かが走ってくるような足音が聞こえた。


今井たちだろうか。

内藤夢サイド

okazaki_t

音は『体育館』の方から聞こえた。

そう思った時、私は胸がドキドキと高鳴った。

okazaki_t

なにか大切なことを忘れてる気がする。

何だろう。

そう思っても、思い出すことはできない。

okazaki_t

体育館はすぐ目の前にせまっていた。


私は走る勢いのままに、飛び込んだ。

okazaki_t

目の前に、多々良君が立っていた。


その横には小学生くらいの女の子が居た。

okazaki_t

私は自分の目を疑った。


なぜなら、その子は小学生の頃の私にそっくりだったからだ。

okazaki_t

顔だけじゃない。恰好も含めて全部が似ている。


(どういうことなの?)

そんな風に思っていると、女の子は多々良君の背中に隠れた。


凝視し過ぎただろうか。

okazaki_t

「みゆみゆ~大丈夫? あ、多々良君! 無事だったんだ?」

「おお、多々良!」

「問題ない。詳しい話はまた今度。それより、今はこの子を無事に届けないと」

「………」

久美ちゃんと今井君の二人の目が、一斉に多々良君の連れている子に注がれた。

二人が何か言葉を発する前に、私は多々良君に声をかけた。

okazaki_t

「その女の子は、誰なの?」
「分からない。体育倉庫に居たんだ」
見れば、体育倉庫前はひどい惨状だった。

okazaki_t

「うわぁ。なにこれ~」
「また随分と派手にやったもんだな」
「っ………」

その時、不意に、私はひどい眩暈に襲われた。

「!」
「ゆめゆめ!?」 
「内藤、大丈夫か?! 内藤!」

みんなの心配するような声をさいごに、私の意識は途絶えた。


okazaki_t

………


……


okazaki_t

「出して……ここから出してよ……」

「どうしてこんなことをするの?」

私が泣いている。

これは夢だ。

これまで何度も見て来た夢。

okazaki_t

「くすくす」

「なあ、知ってるか? こういう日には出るんだってよ」

okazaki_t

(出る?) 

と、私は思う。

私は知っている。

そう、出るのは――

okazaki_t

「ミヨリさまだよ」

okazaki_t

それは、雨が降り始めた黄昏時にやって来る。

その場にいる人間を殺すために。

okazaki_t

ちゅんちゅん

okazaki_t

「………」

目を覚ますと、自宅のベッドだった。


(夢、だったんだろう?)

家を出ると、多々良君が居た。

okazaki_t

「おはよう」
「おはよう」

挨拶を交わすと、私たちは歩き始めた。

「昨日のことだけど」

「え?」
「小学校でのできごと」
「う、うん」

(そっか、夢じゃなかったんだ)
「あの後、内藤が倒れた時、不思議なことが起こったんだ」
「不思議なこと?」
「君はどこかへ消えてしまった。みんなで手分けして探したけどどこにもいなかった」
「ひとまず女の子を家に帰そうって話になって」
「でも女の子もどこかにいなくなってしまった」
「もしかして、君は魔人なんじゃないか?」
「魔人?」
「そうだ。ちょっと、君の持ち物を貸してくれないか?」
「ハンカチでいい?」
「それでいい」

多々良君は私から受け取ったハンカチを手のひらにのせると、何ごとかを呟いた。

すると、不思議なことにハンカチはひらひらと上空を舞い、私の手のひらに落ちた。

okazaki_t

「どういうこと?」
「種もしかけもないさ。これが僕の魔人としての能力さ」
「そう。不思議な力ね」

「君にも同じような力があるんじゃないかと思ってる」

「私は普通よ」
「一緒についてきて欲しい」
それはいつもの通学路だった。

学校に向かってるのかと思ったが、途中で多々良君は立ち止った。

okazaki_t

「嘘……」

思わず、私は声を漏らした。

そこは、私が通っていた小学校の前だった。

でも、おかしい。

そこは廃校になっているはずなのに、生徒たちが楽しそうに校庭で遊んでいたのだ。

okazaki_t

「どうして……」
「これ、覚えてる?」

多々良君はそう言って、何かを手のひらの上にのせた。

それは小さいけれど、『白い靴』の形をしていた。

okazaki_t

「今井がみんなに配った消しゴムだ。消しゴムは一つ一つ色が違って、白は内藤さんに配られたものだ」
「うん」
「これに僕の能力を使ってみる」

そう言うと、多々良君は消しゴムを地面に置いた。

何ごとかをつぶやくと、消しゴムは、ずずず、と地面を這いずり、私に近づいて来た。

okazaki_t

「すごい……」


私の靴をよじ登り、そこで動きを止めた。

「さっき使ったのと同じ力さ。僕の魔人としての能力は、物を持ち主の元に戻す能力なんだ」

「信じるわ」
「その消しゴムは、昨晩、あの小学校で拾ったんだ」
「え?」
「落とし物を見ると、気になる性分で、なんとなく能力を使ってみた」

「消しゴムは、まっすぐとあの体育館に向かっていった。そこに居たのは、あの女の子だったんだ」

「それが何を意味するのか?」
「この消しゴムは、あの子の物であり、私の物」

「たぶん、あの子は私よ」

「やっぱりそうか」

それだけ言うと、多々良君はさっさと歩き始めた。

okazaki_t

「気にならないの?」
「私にはどんな能力があるのか」

「気にならないといえば、嘘になるけど、聞くようなものではないし」

「なにより、君は自覚していないみたいだから」
キーンコーンカーンコーン

okazaki_t

「ゆめゆめ~無事だったんだ? すっごく心配したんだよ~」

「心配かけて、ごめん」
「いいのよ。ゆめゆめさえ無事なら」
「あのね……一つ確認したいことがあるんだけど、いい?」
「なんでも聞いてー」
「わたしの通っていた小学校のことなんだけど」
「ああ……」
「確か、廃校になっていたはずよね?」
「うん。不思議だよ。一体何が起こってるんだろね?」
「あの事件って結局どうなったのかな?」
「実はさ。わたしも気になって少し調べてみたんだよね」
「うん」
「通り魔事件はなかったことになってた」
「なかったこと?」

「うん。綺麗さっぱり。こんなことってあるのか分からないけど、もしかしたら、歴史が変わったのかも、なんて」

「今井君の影響かな」
「誰の影響だって」
「ひえっー」
部室

okazaki_t

「多々良君ちょっといい」
「ああ」

屋上

okazaki_t

「あれから考えてみたんだけど」
「私の能力って、『思ったこと』が実現してしまう能力、なんじゃないかって思う」
「どうしてそう思ったんだ?」

「昔ね、体育館に閉じ込められたことがあったの。その時、クラスの男の子たちに、ミヨリさまがやってくるって脅かされて。私は本当にミヨリさまが来るって思った」

「その時何があったか覚えていないんだけど、クラスメイト達はみんな殺されて、私だけが助かった」

「通り魔が表れたってことになっているけど、でもそれは」

「内藤の『思った』ミヨリさまの仕業だったんじゃないかと?」

「うん」
「その仮説が正しいとして、昨日起こったことはどう説明がつく?」
「今井君が恋占いを持ってきたよね?」
「ああ。確か、ミヨリ様が仲を取り持ってくれると。ミヨリさまか……何かの偶然か?」

「事件があった後、本当は少しだけ、ミヨリ様の仕業なんじゃないかって疑った時があったの。でも、そんなこと信じたくなくて、ミヨリ様は悪い存在じゃない、って思いこもうとした」

「そういう気持ちは分かる」
「でも、昨日今井君が恋占いで、恋占いの最中に二回机を叩いたでしょう?」
「あの時、絶対に返事をしたらいけないはずなのに、私は途中で遮ってしまった」
「その時、はっきりと思った訳じゃないんだけど、もしかしたら、何か悪いことが起こるかもしれないって……」
「今井君が用意してくれた紙には、小学校と体育館が書いてあった。ずっと小学校のことばかり考えてたきたから」
「だから、俺たちは小学校に呼び出されたと?」
「それもあるけど、知りたいと思ったの。四年前に一体何があったのか」
「ずっと避けてきたから」
「なるほどな」


「たぶん、あそこは、本当に4年前の小学校だったんだろう。だから、4年前の内藤がいた。俺には分かる。あれは間違いなく内藤本人だ。その内藤を俺が助けることで、ミヨリ様に襲われるはずだった過去を変えてしまったのかも知れないな」




「うん」
「戻るか」


「その、ありがとう」


私は多々良君の背中に向かって言った。



「わたしを助けてくれて」


多々良君は片手を挙げて答えた。


部室に戻ると、久美ちゃんたちが待っていて、久美ちゃんは私たちのことをからかった。

okazaki_t

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
※これは自由参加コラボです。誰でも書き込むことができます。

※コラボに参加するためにはログインが必要です。ログイン後にセリフを投稿できます。

登場人物紹介

【名前】多々良 矢九(たたら やく)
【性別】男性
 落し物を見つけると持ち主が分かるまで探し続けてしまう高校二年生。小さい頃から様々な落し物を見つけては持ち主のところへ返してきた。そのため、いつの間にかみんなから探偵のように頼られるようになった。しかし、本人は親切心ではなく「落し物の持ち主が誰なのか気になって仕方がない」という理由から行動している。なぜ、こんなにも落し物の持ち主が気になるのか、彼自身にも分からない……そういう性分なのだとしか言いようがない。
 魔人になったのは三年前の中学二年生……彼が下校していた途中である。道端に落ちていた白い靴を見て、「なぜこんなところに靴が?」「落とした人は裸足で帰ったのか?」と気になってしまい、「このまま靴が持ち主の所まで案内してくれたらいいのに……」と願ってしまった。その瞬間、彼の願いどおり靴は勝手に進み始めたのだ。ズズッ……ズズズッ……と。やがて、矢九は持ち主のもとへ行き着くが、その後何があったのか今は思い出すことができない。
【能力名】ピックアップターン
 拾った落し物を持ち主のところへ帰らせる能力。発動すると、落し物は勝手に持ち主のところへ帰り始める。
【戦う動機】「気になるんだ……この落し物が誰のものか」
【作者】ヤドナシ

名前:内藤夢(ないとうゆめ)

性別:女性 年齢:15歳


(性格)

恐がり。怖い話をされると身構える。


(昔の事件)

夢が小学生の時、学校に殺人鬼が現れた。学校に残っていたクラスメイトは、夢以外全員殺された。夢は事件のことをよく覚えていないが、その話をされると、胸が苦しくなる。


(真相)

現場となったのは体育倉庫。当時、夢はいじめにあっており、クラスメイト達に体育倉庫に閉じ込められた。辺りは暗くなり、雨が降り始めていた。クラスメイト達は夢を置き去りにして帰ろうとした。その時、クラスメイトの一人がとある噂話を口にした。それは雨の降りしきる黄昏時に起こるらしい。かつて新任教師が一人学校に残って体育倉庫で片付けをしていると、体育倉庫をノックする音が聞こえた。『ノックの音が聞こえても返事をしてはならない。もし返事をしたならミノリさまに殺されてしまう』。そんな噂話がまことしやかに流れていた。何も知らない新任教師は、その音に返事をしてしまったという。翌日、新任教師はむごたらしく殺されていた。『ミヨリさま』に殺されたのだ――そんな都市伝説じみた噂だった。

話を終え、クラスメイトは夢に忠告した。ノックが聞こえても絶対に返事したらダメだぞと。クラスメイト達は笑いながら、その場を立ち去った。一人取り残された夢は心細さに震えていた。ふとノックの音が聞こえた。それはクラスメイトがいたずらで叩いたものだった。だが、夢は妄想した――『ミヨリさま』という存在を。

クラスメイト達は夢の産み出したミヨリさまによって殺された。


(能力)疑心暗鬼(Demons are lurking behind the dark)

夢が恐怖により想像したモノが現実のものとなる。


作者:岡崎庸道

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色