ヤドナシ

文字数 2,568文字

ここはヤドナシさんの執筆スペース!
悪戯したら取り憑かれてしまうぞ!
最近、私はダメだ……雨が降ると無性に息苦しくなる。今までは「あの事件」の話さえ出なければこんなことはなかったのに……。

yomogi

どうしたの、夢? なんか気分悪そうだけど……
ううん、何でもない……また明日ね!
私は軽く笑顔を作って友達と別れる。ポツポツと降る雨がだんだん激しくなっていた。なんとなく、今日は嫌な予感がする。早く家に帰りたい。でも、なぜか足が重いのだ。まるで、私の不幸を誰かが望んでいるかのように……。

yomogi

コンコンッ!

yomogi

来た……時折私の耳に入ってくるノックの音。あの日以来、雨が降ると私にまとわりつくようになった忌まわしい音だ。ドアがあろうとなかろうと響いてくる。もちろん、振り向いたって何もない。『ミヨリさま』は返事さえしなければ何もしてこない。ただ、私の心を騒がせる。

yomogi

あれ……多々良くん?
足元ばかりを見て歩いていた私は、ふと顔をあげて気がついた。数メートル先の電信柱の前で、クラスメートの多々良くんが傘をさしたまましゃがんでいることに。

yomogi

…………
えっと……何してるの?
すぐそばまで近づいても、彼はじっと地面を見つめたまま私に気づかない。声をかけてようやく、傘を横にずらして私と目を合わせる。

yomogi

んっ……なんだ、夢か……
どうしたの? こんなところでじっとして……
彼とは特別仲良くしてるわけじゃないけれど、会話をしない仲でもない。お互いあまり人付き合いが得意でないせいか、クラスで班別に別れるときは自然と一緒になることが多いからだ。

yomogi

いや……ちょっとな。
歯切れの悪い彼の言葉に、私も多々良くんが見ていたものへ視線を落とす。

yomogi

えっ……きゃっ!
そこにあったのは、水たまりに浮かぶ大量の目玉だった……。

yomogi

なっ……何これ!?
目玉……だな。
そんなこと分かっている。見たら一目瞭然だ。まるで今抉り出したばかりのような目玉がいくつもこっちを見つめてる……いや、こっちを見つめてるなんて気のせいだ。気のせい……だ。

yomogi

なんで……こんなところに目玉が浮いてるの?
それをずっと考えてたんだ。触った感じ、おもちゃってわけでもない……本物の目玉がなんでここに、それも大量に浮いてるのか……
さっ、触った……?
なんだ……夢も魔人だろ? そんなに驚くことか?
彼の言葉に私は口を開けたまま何も言えなくなった。魔人……私が魔人?

yomogi

小学校の頃、雨の日に体育館倉庫であった事件……あの時に……
やめて!
大声を出した私に、多々良くんはびっくりした様子で黙り込んだ。喉が熱い……肺から何かが吹き出して来そうな感覚がする。ダメだ、聞いちゃいけない。聞いちゃいけない……

yomogi

悪い……分かった、あの事件の話はしないよ。ごめん……
彼は素直に謝った。別に悪いのは多々良くんじゃない。私だって分かってる。あの日、私だけが生き残った理由……私が何を想像して、その後何が起きたかなんて……これだけ魔人による事件がニュースになっていれば何となく分かる。だけど、認めたくない……

yomogi

俺はただ、この目玉が気になってだけだから……夢はもう帰りなよ。雨降ってるし、寒いだろ?
えっ……帰るって……帰るけど……この目玉はどうするの?
どうするって……持ち主を探すさ、これから。
探す……? 何言ってるの! 警察に言わないと……持ち主って言ったって、その人……
悪い、その人がどうなっているかとか関係ないんだ……俺はそういう魔人だから。落し物を見つけたら持ち主を探す性なんだよ。
何それ……
ピックアップターン……持ち主の所へ案内してくれ。
彼がそう唱えると……

yomogi

コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ……

yomogi

そこにあった目玉が大量に転がり始めた。

yomogi

ひっ!
思わず、私は多々良くんの袖にしがみつく。彼は気にする様子もなく、そのまま転がる目玉の後をついていく。

yomogi

どっ、どこに行くの!?
知らないからついて行くんだ。
コンコン!

yomogi

ひっ……んっ!
その時、ノックの音が私のすぐ背後に聞こえた。このタイミングで『ミヨリさま』に私が返事するのを狙われている……早く目玉から離れたいのに、多々良くんの袖を握る手が離れない。

yomogi

コンコンコンコンコンコンコンコン!

yomogi

なんで……なんで今日に限ってそんなにしつこく私のそばでノックするの!?

yomogi

どうした? 別に無理してついてくる必要は……
振り返った彼は、私が返事をできないでギュッと袖にしがみついてるのを見ると、黙ってそのまま腕をひっぱり返してきた。

yomogi

……そっちにも転がってるから……ついてくるなら左の方にしろ。
私は黙って、静かに頷いた。

yomogi

『ミヨリさま』……か。
ボソッと、彼がつぶやくのが聞こえる……私の小学校の頃に起きた事件を知っているなら……あの噂も、きっと今、私に聞こえているものも想像がついているのだろう。最初から、私のことを魔人と言うくらいだから、彼は誰よりもこういう状況に慣れているのかもしれない。

yomogi

転がっていく目玉、後をつける多々良くん、その隣でしがみついてる私は、しばらくして人気のない公園のトイレについた。外は雨、時は夕方……薄暗く気味の悪い場所だ。

yomogi

ニャーー

yomogi

おっと……!
突然がさっと現れた黒い猫に、多々良くんも驚いて振り返る。

yomogi

猫……?
ニャーァアアアアア……

yomogi

えっ……
よく見ると、その猫の口には白いボールが挟まっている。いや、足元にも……私たちが追って来たいくつものそれが……

yomogi

ガリッボリッ……

yomogi

口の中にあったものを砕きながら飲み込んだ猫が顔を上げたとき、さっきまで黄色く光っていた目は、赤く染まった色をしていた。

yomogi

ニャァアアアア……ニャァアアアア……アハハ……アハハハハハッ!

yomogi

これは……
多々良くん!
落ち着け、これは目玉の持ち主じゃない……たぶん君が怖がって想像した何かだ。
えっ……私が……
そうだとしたら……あの猫が食べた目玉の持ち主はいったい……

yomogi

ソッチジャナイヨ……

yomogi

唐突に聞こえて来た声……一度も話したことはない、だけど雨の日になるといつも私にまとわりついていたそれだと直感的にわかった。

yomogi

振り返ると、トイレの入り口の陰に長い女の影が見えた。

yomogi

ミヨリ……さま?
ダメだ! 答えるな!
遅かった……その時にはもう、私は答えてしまっていた。

yomogi

ヤット答エタ……

yomogi

夢……
ポトリッ……私の顔から、何かが落ちる音が聞こえた。

yomogi

それはコロコロと転がって……

yomogi

そこまでです!!
ガリッ……ゴリッ!

yomogi

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登場人物紹介

【名前】多々良 矢九(たたら やく)
【性別】男性
 落し物を見つけると持ち主が分かるまで探し続けてしまう高校二年生。小さい頃から様々な落し物を見つけては持ち主のところへ返してきた。そのため、いつの間にかみんなから探偵のように頼られるようになった。しかし、本人は親切心ではなく「落し物の持ち主が誰なのか気になって仕方がない」という理由から行動している。なぜ、こんなにも落し物の持ち主が気になるのか、彼自身にも分からない……そういう性分なのだとしか言いようがない。
 魔人になったのは三年前の中学二年生……彼が下校していた途中である。道端に落ちていた白い靴を見て、「なぜこんなところに靴が?」「落とした人は裸足で帰ったのか?」と気になってしまい、「このまま靴が持ち主の所まで案内してくれたらいいのに……」と願ってしまった。その瞬間、彼の願いどおり靴は勝手に進み始めたのだ。ズズッ……ズズズッ……と。やがて、矢九は持ち主のもとへ行き着くが、その後何があったのか今は思い出すことができない。
【能力名】ピックアップターン
 拾った落し物を持ち主のところへ帰らせる能力。発動すると、落し物は勝手に持ち主のところへ帰り始める。
【戦う動機】「気になるんだ……この落し物が誰のものか」
【作者】ヤドナシ

名前:内藤夢(ないとうゆめ)

性別:女性 年齢:15歳


(性格)

恐がり。怖い話をされると身構える。


(昔の事件)

夢が小学生の時、学校に殺人鬼が現れた。学校に残っていたクラスメイトは、夢以外全員殺された。夢は事件のことをよく覚えていないが、その話をされると、胸が苦しくなる。


(真相)

現場となったのは体育倉庫。当時、夢はいじめにあっており、クラスメイト達に体育倉庫に閉じ込められた。辺りは暗くなり、雨が降り始めていた。クラスメイト達は夢を置き去りにして帰ろうとした。その時、クラスメイトの一人がとある噂話を口にした。それは雨の降りしきる黄昏時に起こるらしい。かつて新任教師が一人学校に残って体育倉庫で片付けをしていると、体育倉庫をノックする音が聞こえた。『ノックの音が聞こえても返事をしてはならない。もし返事をしたならミノリさまに殺されてしまう』。そんな噂話がまことしやかに流れていた。何も知らない新任教師は、その音に返事をしてしまったという。翌日、新任教師はむごたらしく殺されていた。『ミヨリさま』に殺されたのだ――そんな都市伝説じみた噂だった。

話を終え、クラスメイトは夢に忠告した。ノックが聞こえても絶対に返事したらダメだぞと。クラスメイト達は笑いながら、その場を立ち去った。一人取り残された夢は心細さに震えていた。ふとノックの音が聞こえた。それはクラスメイトがいたずらで叩いたものだった。だが、夢は妄想した――『ミヨリさま』という存在を。

クラスメイト達は夢の産み出したミヨリさまによって殺された。


(能力)疑心暗鬼(Demons are lurking behind the dark)

夢が恐怖により想像したモノが現実のものとなる。


作者:岡崎庸道

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