ダーク・ホースは日が沈むと共に

文字数 833文字

 だが、そこで多賀が余計なことを言ってくれた。
「でも井原さん、どうして相談する気になったの? 先生に」
 それは勇気をふりしぼったからだ。いちいち聞くようなことでもない。奏野も同じことを感じたのか、顔をしかめてたしなめた。
「多賀、おまえそれは……」
 ところが、その言葉を遮るように、井原は事もなげに答えた。
「風間君がメールくれたの、勇気出して学校に来いって」
 午後いっぱい、自習室に詰めていた僕たち3人は同時に絶句した。
「え……」 
 部屋いっぱいに飛び交う「?」マークを、風間のいつになく長めの言葉が一掃する。
「閉じ込められたから、ああもうだめだなって思って」
 僕の胸に、認めたくないイヤな予感がよぎる。
そこへ、情報処理部の部員たちが大挙してやってきた。
「奏野センパーイ、遅くなりました」
「あ、ああ……」
 自分が言いつけた用事をやっと思い出したのか、奏野は曖昧に返事をする。その顔色をうかがっていた部員たちは、一気にごたごたと機材の撤収を始めた。
その喧噪の中で、井原は僕たちに手を振る。
「じゃあ、よいお年を……またね、遠田君」
「あ、ああ……」 
 僕が曖昧に答えたのは、風間が井原と一緒に帰ろうとしたからだ。だが、奏野はそこらへんをいい加減にしなかった。僕より早く我に返って、目をぱちくりさせながら尋ねる。
「あの……お前ら、そういう?」
 風間が、ぼそっと答えた。
「何か、いつの間にか、そんな」
 超特急でパソコンやプリンターを運び去る情報処理部員に紛れて、風間と井原の姿は消えていた。
「あ……」
 それ以上、僕に言葉はなかった。たぶん、風間は来なくなった井原のためだけに、メールを使い始めたのだろうから。
いつの間にか帰り支度をしていた多賀は、一言だけ残して廊下の暗闇に消える。
「どうする?」
 どうするもこうするも、どうしようもなかった。
 冬は終わったのだ。井原についてこれ以上どうこう言うのは、僕のプライドが許さない。
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登場人物紹介

遠田勝昭


高校2年生。内気でシニカルな割に、感情に任せて突拍子もない行動を取ることがある。ちょっとムッツリスケベ。

奏野弓


プロポーションに恵まれた、ワープロ操作が異様に早い情報処理部部長。正義感は強いが責任は取らないクラスの裏ボス。

多賀久平


思考もスタイルもスマートな合理主義者。必要なことしか言わないし、やらないが、仕事は早い。女性への観察も鋭いが、そっち方面はストイック。

井原佐紀


小柄で、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな化学部部長。困っている人を人知れずフォローする、心優しく奥ゆかしい少女。

風間邦衛


人はいいが動作もカンも鈍い巨漢。訥弁でコミュニケーション能力に乏しく、付き合うには忍耐を必要とする。

新島真由


スタイル抜群で顔も可愛いが、性格のねじ曲がった女子グループのボス。自分以上に可愛く、男子にモテる女子をいびるためなら、肉体的・精神的にどれほどの労力も厭わないサディスト。

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