ホームルーム

文字数 1,467文字

 部室で待つこと数十分。いかにも野球部らしい人物がずかずかと入ってきた。丸刈り色黒、岩みたいな体。改めて見直してもどこからどうみても「The 体育会系です」だった。伊織の周りには野球部への入部希望者が何人かいるが、その人物はまだだと小さな声を発した。小さな声ではあるが、とても威圧的で気の弱い人間ならその声だけでびくっと体を震わせるくらいの力はあった。
 遅れること約一時間。ようやく部室に人数が集まってきた。広かった部室が少し圧迫感を覚えるくらいにまで埋まってきた。その人物が手にしている書類と人数を数えると小さく首を縦に動かし、集まった生徒を目で凪いだ。
「よっし、待たせたな。んじゃ、説明するからよく聞けよ」
 まるで地震のような低い声に伊織は驚いた。腹の底にずんとのしかかってくるようなそんな声だった。まだ腹の奥にびりびりとしたものを感じながら、伊織はその人物の話に耳を傾けた。
「自己紹介からだ。俺は岩垣桃次郎(いわがき トウジロウ)だ。まぁ、よろしく。さっそくだが、お前らがつけているバングルについて話をする。お前らは野球部に入部をしたということは、その色は赤で間違いないな。赤は前衛で戦うタイプだ。これからの課題でお前らは主戦力となるだろう。ちなみに、ここでの活動は一切しない。お前らが頑張ればいいだけだ。ああ、そこにあるへんちくりんな機械のことはもう少し経ったら話してやるから、今は気にすんな」
 伊織は桃次郎に指さされたそれを見る。まるで小さなエンジンのような機械だったが、不思議なのは電源コンセントが入っていないのに、小刻みに動いているのだ。何か役に立つのかはわからなかった。
「せ……先生。質問があります」
「おう。なんだ」
 おずおずと手を挙げる生徒に応じる桃次郎。その生徒は様々な部分で使われている課題という言葉について質問をした。
「その、課題っていうのは具体的にはどんな内容なんですか?」
桃次郎はきっぱり「わからん」とバッサリ。というのも、桃次郎いや他の教師全員はその課題ということについては校長から一切聞かされていないらしい。だから、答えることができないと言った。
「質問は……ねぇな。よし、じゃあ次はこのバングルについてだ」
 と言って、桃次郎はバングルのレプリカを持って説明を始めた。液晶部分に自分の名前と所属している部活動、それと課題の状況などが表示される。今は課題を受け取っていないので、まだ液晶には自分の名前と所属している部活動しか表示されていなかった。それと、今後はこれが部屋の鍵にもなるとのことでくれぐれも壊したりしないよう注意を受けた。
「安心しろ。防水加工もされてるからちょっとやそっとじゃ壊れねぇ。たぶんな」
 がははと笑いながら説明を続ける。万が一、破損してしまった場合は速やかに事務所へ手続きを申請すること。その間は課題受けられない。もし、課題の途中で壊れてしまった場合は一時的ではあるが課題の保存はされているので、新しいバングルを受け取ったらすぐにその課題の続きいないと、また最初から受けなくてはいけないらしい。だから、取り扱いには気をつけろと何度言われた。
「とまぁ、ざっくりと説明はした。あとは、明日から出される課題に各々が頑張ればいいだけだ。解散」
 これ以上の質問は受け付けないとばかりに、ぱっとその場を解散させた。まだまだわからないことばかりだが、これはちょっとずつ理解していくしかないようだ。あとで、護とも話をしてみよう。伊織はそう思いながら自分の寮へと戻った。
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