4時間目

文字数 1,710文字

 次のフロアは至って普通で、敵も今までに出てきた半生ナメクジが大量に出現するだけだった。ここでも光希は悲鳴を上げながらも素早く筆を走らせ、半生ナメクジの群れを炎で溶かしていく。完全に出遅れてしまった伊織と竜樹はぽかんとしたまま固まり、薬品の準備をしていた護に関しては一瞬の出来事に理解が追い付かず、あたりを見回していた。
「あれ? さっきまでいたナメクジたちは??」
「ん? 瞬時に溶けちまったぜ。光希の筆の力でな」
「なんとも素早い筆捌きだった……」
「だ、だって。気持ち悪かったんだもん。早く終わらせたかったし」
 顔を真っ赤にしながら弁明をする光希を笑いながら、一同は次のフロアへと続く扉に手をかけた。

 ガチャ ガチャガチャ

「あれ……おかしいな。開かない」
 護が何度もドアノブを回すも、内側から鍵がかけれているのか開かず引っ張ってもゴンゴンと鉄と鉄がぶつかり合う音しかしなかった。不審に思った一同は手分けをして何か手がかりがないか調べ始めた。あたりには既に半生から液体と化した半生ナメクジ

ものが広がり、歩くたびにぴちゃりぴちゃりと気持ちの悪い音をたてる。とりあえず、このフロアから出ることが先だと割り切り、何か不自然な点がないかを調べた。
「あーん……この音気味が悪いよぉ……」
「その気味の悪い音を発生させる原因をつくったのは誰かな……」
「う……」
「今は嫌がっていても仕方ない。手がかりを……ん?」
 竜樹が足元に違和感を感じ、床を調べた。半生ナメクジ

ものの下に何かが埋まっており、それを探り持ち上げた。
「あれ……それ。鍵かな」
「ああ。そのようだ。体の中にこれがあったみたいだ」
 粘り気の強い体液が滴る鍵を手に取り、そのまま差込口へ入れ回した。

 カチリ

 鍵の開く音がし、ドアノブを回すと難なく開いた。一同は喜び先へ進もうとするがそれを止めたのは光希だった。理由は光希の右手にある筆だった。よく見るとさっきのナメクジを退治したときに大量の墨汁を使用してしまい、筆の半分以下にまで減っていた。一応、墨汁のボトルはあるにしてもこれでは心許ないと判断したのだ。
「ごめん。あたし、つい感情的になっちゃって……残りは……これなんだ……あはは」
「あぁ、残り少ないね」
「お前、そういう瞬発力すごいのな……」
「まぁ、無理して進まなくてもいいか。今日はこのくらいにして次に備えよう」
「ほんっとごめん! 次からは気を付けるから……ね」
 光希は両手を合わせて謝ると、扉の先にある淡い光に手を伸ばした。光に包まれたかと思った次の瞬間には目の前がぐにゃりと歪み意識はゆっくりと遠のいていった。


 目が覚めるとそこは課題に取り組む前のあの部屋だった。少しぼんやりとする頭を振り、意識をしっかりさせる。伊織、護、そして竜樹と光希の順に無事帰還し、各々の寮へと向かっていった。
 伊織と護は寮に帰る途中、揃って難しい顔をしていた。そして互いに難しい顔をしているのを見たとき、口を開いた。
「「課題っていつも同じ?」」
「お? お前も?」
「え? 伊織も同じこと考えてた?」
 ここ数日間、課題が出てはあの塔のようなものを登っていることに疑問を抱いていた。確かにあの塔のようなものを登っていれば課題はクリアとなり、また新たな課題が配られる。といっても、内容に関しては今のところほぼ同じだった。もしかしてこのまま同じ課題が書かれたプリントを渡さるかポスティングされるかを繰り返されるのかと思うと、少しばかり不安を感じざるを得なかった。
「なぁ……本当にこのままでいいのか?」
「それは僕も思ったけど……どうにかできる問題じゃないよ」
「……だよなぁ。きっと明日も同じことが書かれたプリントがあるんだぜ」
「そう……かな。そのうち違うことも書かれる……じゃないかな」
「明日……どんな課題なんかな」
 突然、気にしなくてもよかったことが二人の頭を侵食し、それ以降二人は寮に入ってからも口を開くことはなかった。寮の中にいたりんどうが嬉しそうに護に抱き着くも、なんの反応を見せないことにちょっとだけ寂しい顔をした。一体どうしたのと聞きたげに小さく鳴くもそれに二人は答えてくれなかった。
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