4 説明

文字数 1,637文字

首都にある世界連邦の支部で職員が告げた事実は、驚くべきものだった。私達の村には、〝先帝〟種族の人格が宿る〝分離体〟、つまり量子頭脳が隠されていたのだ。連邦軍出動の主目的は〝先帝〟人格群の解放にあり、その名も〝聖霊(ホーリースピリット)〟救出作戦というものだった。

村を営む団体の黒幕は、人類に偽装して地球に入り込んだ〝慈愛の王〟の工作員達だった。本部から連れ出されていた連中だ。〝剣の王〟〝炎の王〟〝啓示の王〟〝慈愛の王〟は四大中枢種族と呼ばれ、それぞれ宇宙艦隊戦、天体攻撃戦、量子情報戦、生物化学戦によって帝国設立に貢献し、他の種族から恐れ敬われていた。

〝慈愛の王〟の個体群は、光学迷彩を使って天使も演じながら、団体構成員を集め、上級構成員に対しては洗脳や脅迫、時には殺害まで行って組織を運営していた。連邦政府もそれにつき調査を進めていたが、〝先帝〟人格群や人々の身柄を押さえられていることもあり、終戦までは摘発に踏み切れなかったそうだ。工作員達の側も、救出作戦時には旧帝国の敗戦を確認しており、士気が低下していた。作戦に対しては初めから、私達を捨て駒にして母星への義理を果たした後で、投降することを決めていたようだ。

そのことを知った私は、せめて奴等を蹴飛ばしてやれば良かったと思った。もっとも、そんなことをすれば大問題になっていただろう。あっさり返り討ちにあい、あるいは恐ろしい死に方をしていた可能性も高い。衰えたとは言え、四大種族はサタンが用いた神話で四大天使の原型(モデル)とされたほどの権威があり、また言うまでもなく強力な軍事種族達だったからだ。そもそも奴等は自分達の量子頭脳に人格の複製予備(バックアップ)をとってあるから、たとえ殺したとしてもあまり意味はない。

不公平だとは思うが、何事にも技術水準の違いが大きく明暗を分けるというのは、人類文明の歴史でもお馴染(なじ)みの事実だ。〝大戦〟では、多くの種族が滅んでいる。またそれは、全てが四大種族の責任によるものではないともいわれる。時代の変化に、他の上級種族も含む帝国全体の民度が追いつけなかったのだそうだ。戦争犯罪に対する処罰も、新帝国では旧帝国のような、種族絶滅や文明剥奪といった処分はない。ただし、今後の悲劇を防ぐため、自分達による加害行為の苦痛を仮想体験したり、種族内で人格の権限配分を修正したりという処置はあると聞いたので、ぜひ改善を期待したいと思った。

事件からしばらく経って、連邦職員の説明は全帝国への放送映像で裏付けられた。〝聖霊(ホーリースピリット)〟の一人だった〝先帝〟種族の代表人格は、自分達が正当性を確保するための道具として〝慈愛の王〟に拘束されていたと証言した。〝慈愛の王〟から見ると、銀河中央から離れた開発途上星域で、最も文明化が成功した地球に隠すのが、秘匿性や安全性の面で一番都合が良かったようだ。





代表人格は地球向けの放送で、美しい銀髪と輝く金瞳を持った少女の姿で現れた。量子人格化した種族は威圧的な印象を与えないよう、種族の特徴を反映しつつも、愛らしい少女の姿をした映像体や分離個体を用いることが多い。それでも彼女に関して言えば、やはり銀河系を統一した種族らしく、高い知性と強い意志をうかがわせる、鋭い口調と眼差(まなざ)しが印象的だった。まあ彼女達は結局のところ、本当の神様でも天使達でもなかったわけだが……それらに(なぞら)えられるだけの力を持つ種族ではあったのだろう。

私達が学ぶべき教訓も、まさにそこにあると思う。いかに私達が神や悪魔の如き技術力を得ても、元からそれを使いこなせる資質をもっているわけではない。身に余る力を持てば使い道を誤るし、自分達だけでなく他の人々も高めていかないと、引きずられて滅んでしまう。文明発展に対応すべく、どうせなるなら私達は〝責任ある神〟をめざして、どこまでも自分達自身の資質や組織を改善し、技術利用や利害調整の政策を高めてゆかねばならない……って言うのは、ユヴァル・ノア・ハラリという歴史学者の受け売りなんだけどね(笑)。私も全く、同感だ。
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