第1話

文字数 612文字

『にこたまさん、めっちゃ絵上手いっすよねー! やっぱり常に描いてるんかいな?』

 手のひらの中におさまる、小さな画面の中の紙ヒコーキをタップ。でも、頭に浮かぶのはちまちまとした青い鳥のイメージだ。封筒をくわえて宙を一回転し、そのまま飛び立っていく。
 エラーもなく無事にメッセージが相手に送信されたのを確認してから、亜耶子は単行本に目を落とした。殺し屋は新幹線に乗ったところ。ストーリーはここから加速する。
 ホットのカフェラテは、自分のかたわらで、一度も口をつけられることがないまま冷めていく一方。それなのに、右手に持ったスマートフォンを離せないのは、意識していないくらい心の奥底で、打ちのめされているせいかもしれない。

 またコンテストで選外。一緒に応募していた創作仲間は優秀賞だった。

 妬みたくはない。でも、妬ましい。せめて誰かに認められたい。あなただってじゅうぶんにすごいって言われたい。じゃないと腐ってどろどろに溶けてしまう。

 ランチ時を過ぎたのに、カフェは混んでいる。いつものテーブル席には座れなかった。ちょうど夏休みに入ったところだから、しかたがない。まぁ、ガラスに面したカウンターは、一人で本を読むのにはうってつけと言えばうってつけだ。長時間独占しても、肩身が狭くない。
 すぐに返事はこない。相手は仕事中かもしれない。きたら振動して教えてくれるだろう。スマートフォンをカウンターの上に置いて、亜耶子はページをめくる。

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