第5話

文字数 606文字

『にこたま』から返信はこない。たぶん、亜耶子が自分も小説を書くって言ったから、遠慮しているのかもしれない。彼女はそういう人だ。
 継続は力なり。そんな言葉を亜耶子は思い出していた。
『にこたま』はもともと絵の才能はあったんだろうけど、メッセージにあったように、時間を見つけてはまめに描いているから、あそこまで人を感動させる絵が描けるようになったんだと思う。そして、現在進行形で進化している。
 自分も、賞を獲りたいなら、やっぱりたくさん書かないと。せめて、彼女に対して恥ずかしくないくらいには。そう、亜耶子は思った。
 視線を単行本から、手元に置いたスマートフォンに移す。亜耶子は、小説の執筆を主にスマートフォンでやっている。手軽でやりやすいのだ。
 でも、殺し屋ミステリーのほうがちょうど佳境に差しかかったところだった。
 亜耶子の大好きなシリーズ。発売日にすぐ買って読みたかったのに、近辺の本屋ではどこも売り切れだった。ネットでようやく手に入れて、バイトが休みの今日、やっとゆっくり読めるとホクホクしながらここにきた。
 もう少し先まで読もう。まだ日は明るい。せめて章の終わりまで。
 亜耶子は再び活字に目を落とした。そのとき隣の客が立ち上がって、肘が亜耶子の肩に当たった。
「あ、すみません」
 男性だった。亜耶子はそこで初めて左隣に座っていた客を見た。顔はいいのに、なんだか服のセンスが微妙。オムレツ、ゆで卵……卵料理柄だ。
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