第2話

文字数 1,003文字

今日も、彼氏に手を出されたなんて騒いでるけど、歴代の彼氏(さかのぼれば、保育園時代からになるから、何人になるだろう)と、今日みたいな『どっちかが、もう片方の彼氏と遊んだ』が理由で別れたことは一度もない。
そう思い出している間にも、けんかは続いている。
まったく、いつものことだけどみんなに迷惑かかるし。
そろそろ仲裁に行くかな?と思った時に、いつもの決まり文句が、今日は桃子の口から飛び出した。
 
「なによ!このブス!ブスのくせに、ヒトの彼氏と遊んでるんじゃないわよ!桜子」
「あんたにブスって、言われるすじあいはないわよ?桃子。あんたこそ鏡を見てきたら?」
…仕方ない。仲裁しに行くか。
私は席を立って、後ろで一つにくくって前にたらした髪の束をするりとひとなでする。
そして二人のところに歩いて行った。
 
「桜子も桃子も、いいかげんにしてよ。うるさくて眠られないじゃない」
「そんなこと言っても、もとはと言えば桜子が」
「だから違うって言ってるでしょ!桃子」
「ふたりともさあ、そんな喧嘩はクラスの中でやらなくても、いつでもできるじゃない」
「そう言っても、思った時に言わないと。桜子って、いっつも逃げちゃうんだもん」
「それは桃子がしつこいからでしょ?梅子からも、言ってやってよ」
ふたりの矛先が、私の方に向かってきた。
それぞれが自分の正当性を主張して、私に味方についてもらおうとする。
キャン、キャン、キャン、キャン…ああうるさい。
 
「もう、二人ともうるさい!ふたりとも何様のつもり?私の昼寝の時間を奪って、なにか楽しいの?」
昼寝の時間をじゃまされてイライラしていたのか、私は仲裁しにきたはずの相手、桃子と桜子にむかって文句をつけだしていた。
「ふたりとも、いつもそう!私ばっかり貧乏くじひかされて。いつも真っ先に何かさせられるのは私で、桃子も桜子もあとからのんびりやってくるだけじゃない。いいかげんにしてよ。それに…」
「そんなこと言ってるけど梅子も…」
「梅子ばっかりじゃないわ。わたしだって…」
喧々諤々(けんけんごうごう)…
さすがに見かねたクラスメイトの男子が、ひとりおずおずと声をかけてきた。
じゃんけんで負けて貧乏くじをひかされたらしい。
「春野たちさ…そろそろ、けんかはやめたほうが…」
 
 
「「「部外者は、だまってて!!!」」」ぴったりそろった三重奏。
 
 
梅子
桃子
桜子
  
 
私たちは、あけぼの中学校2年4組の名物三つ子姉妹。
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み