第2話 完結
文字数 1,583文字
一週間後。遂にデカ盛りのラーメンが完成した。
どんぶりの代わりに大きめの土鍋を用意し、その中に麺やスープを入れる。そこにもやしやシナチクやキクラゲやチャーシューなどを、まるで海水浴に親子で作る砂山のように、容赦なく盛り付けた。量は十倍だが料金は七倍。何とも微妙な料金設定である。
さっそくメニューに追加し、店のあちこちにも『新メニュー! 白龍ラーメン地獄盛り』の貼り紙が飾られた。
だが、後藤は不安の色を隠せない。これで本当に客を呼べるのだろうか。
一方、古賀はというと「絶対大丈夫ですから」の一点張り。やると決めた以上、後藤はただ祈るしかなかった。
後藤の危惧を跳ね返し、地獄盛りは大当たりした。
楽観的な古賀の予想通り、評判を聞きつけたであろう、見慣れない客たちが連日のように押し寄せた。
客たちは例外なく、度肝を抜かされた。いざ地獄盛りを前にすると、興奮のあまり大騒ぎになり、チロリンチロリンとスマホのシャッター音が店内に鳴り響く。もちろん、ほとんどの客は食べきれず、途中でギブアップしたが、中には数人でシェアして完食したグループもいた。後藤としてはその方が有難い、いくら商売とはいえ、せっかく作ったラーメンを処分するのには、あまりにも心苦しいからだ。
だが、三か月も経つと、客足も次第に落ち着いてきた。
古賀の話によると、一度SNSに上げたら、その時点で満足するらしく、二度目は来ないそうだ。確かに味よりも見た目のインパクトが勝負だから、リピーターにはならないのは自明だ。一度訪れた場所には二度と行かない観光旅行と同じ理屈である。雑誌やテレビなどで紹介されない限り、口コミでは限界があった。
そこで後藤たちは再び新メニューを考案した。
その名も『レコードチャーハン』と『CD餃子』。町中のリサイクルショップを周り、格安のレコードやCDをかき集めて中心の穴を塞ぐ。それを皿の代わりにして、チャーハンや餃子を盛り付けたメニューだ。
これも話題となり、客足が戻るのに、たいして時間はかからなかった。
これに気をよくした後藤と古賀。
その後も氷の器で盛り付けた『極寒!冷やし中華』や、女子校生をターゲットにした『タピオカタンメン』や『パンケーキシュウマイ』。男性客を意識した『ステーキとんかつ唐揚げ麻婆豆腐カレー&エビフライつけ麺』。果ては『ミニ四駆天津飯』に『Gショック野菜炒め』などの珍メニューを次々と投入していく。
それに比例するがごとく、店内のインテリアも徐々に様変わりしていった。
ダースベーダーの等身大フィギュアや、畳二畳分の鉄道模型。子供に人気のカードゲーム『プレイキング』のバトルスペースなどが目立つようになるなど、後藤たちの追い求めるインパクトも、自然とエスカレートしていった。
平凡なラーメン屋から、完全にイロモノ屋敷と化していったある日、『白龍ラーメン』は突如閉店となった。
沈黙したシャッターの前で、『都合により閉店します』と書かれた貼り紙を貼り終えた古賀は、溜息交じりにそれを眺めていると、通りかかった近所の主婦らしき女性に話しかけられた。
「結構繁盛しているように見えましたけど、何かあったんですか?」
肩を落とした古賀は苦笑いをすると、やがて気恥ずかしそうに口を開く。
「訴えられたんですよ。お客さんに」
目を丸くした女性は、思わず聞き返す。
「訴えられた? 噂には聞いていましたけれど、一体なにがあったんです?」
顔を背け、深くため息を吐いた古賀は、やがてぽつりと話し出した。
「……僕は止めたんですよ。絶対に辞めた方がいいですって。でも、インスタ映えを意識しすぎるあまり、店長の後藤さんが遂にやらかしてしまったんです」
「何をやったんですか?」
古賀は遠い目をしながら、重い口を開く。
「全裸で接客したんです。それも若い女性のお客さんの前で」
どんぶりの代わりに大きめの土鍋を用意し、その中に麺やスープを入れる。そこにもやしやシナチクやキクラゲやチャーシューなどを、まるで海水浴に親子で作る砂山のように、容赦なく盛り付けた。量は十倍だが料金は七倍。何とも微妙な料金設定である。
さっそくメニューに追加し、店のあちこちにも『新メニュー! 白龍ラーメン地獄盛り』の貼り紙が飾られた。
だが、後藤は不安の色を隠せない。これで本当に客を呼べるのだろうか。
一方、古賀はというと「絶対大丈夫ですから」の一点張り。やると決めた以上、後藤はただ祈るしかなかった。
後藤の危惧を跳ね返し、地獄盛りは大当たりした。
楽観的な古賀の予想通り、評判を聞きつけたであろう、見慣れない客たちが連日のように押し寄せた。
客たちは例外なく、度肝を抜かされた。いざ地獄盛りを前にすると、興奮のあまり大騒ぎになり、チロリンチロリンとスマホのシャッター音が店内に鳴り響く。もちろん、ほとんどの客は食べきれず、途中でギブアップしたが、中には数人でシェアして完食したグループもいた。後藤としてはその方が有難い、いくら商売とはいえ、せっかく作ったラーメンを処分するのには、あまりにも心苦しいからだ。
だが、三か月も経つと、客足も次第に落ち着いてきた。
古賀の話によると、一度SNSに上げたら、その時点で満足するらしく、二度目は来ないそうだ。確かに味よりも見た目のインパクトが勝負だから、リピーターにはならないのは自明だ。一度訪れた場所には二度と行かない観光旅行と同じ理屈である。雑誌やテレビなどで紹介されない限り、口コミでは限界があった。
そこで後藤たちは再び新メニューを考案した。
その名も『レコードチャーハン』と『CD餃子』。町中のリサイクルショップを周り、格安のレコードやCDをかき集めて中心の穴を塞ぐ。それを皿の代わりにして、チャーハンや餃子を盛り付けたメニューだ。
これも話題となり、客足が戻るのに、たいして時間はかからなかった。
これに気をよくした後藤と古賀。
その後も氷の器で盛り付けた『極寒!冷やし中華』や、女子校生をターゲットにした『タピオカタンメン』や『パンケーキシュウマイ』。男性客を意識した『ステーキとんかつ唐揚げ麻婆豆腐カレー&エビフライつけ麺』。果ては『ミニ四駆天津飯』に『Gショック野菜炒め』などの珍メニューを次々と投入していく。
それに比例するがごとく、店内のインテリアも徐々に様変わりしていった。
ダースベーダーの等身大フィギュアや、畳二畳分の鉄道模型。子供に人気のカードゲーム『プレイキング』のバトルスペースなどが目立つようになるなど、後藤たちの追い求めるインパクトも、自然とエスカレートしていった。
平凡なラーメン屋から、完全にイロモノ屋敷と化していったある日、『白龍ラーメン』は突如閉店となった。
沈黙したシャッターの前で、『都合により閉店します』と書かれた貼り紙を貼り終えた古賀は、溜息交じりにそれを眺めていると、通りかかった近所の主婦らしき女性に話しかけられた。
「結構繁盛しているように見えましたけど、何かあったんですか?」
肩を落とした古賀は苦笑いをすると、やがて気恥ずかしそうに口を開く。
「訴えられたんですよ。お客さんに」
目を丸くした女性は、思わず聞き返す。
「訴えられた? 噂には聞いていましたけれど、一体なにがあったんです?」
顔を背け、深くため息を吐いた古賀は、やがてぽつりと話し出した。
「……僕は止めたんですよ。絶対に辞めた方がいいですって。でも、インスタ映えを意識しすぎるあまり、店長の後藤さんが遂にやらかしてしまったんです」
「何をやったんですか?」
古賀は遠い目をしながら、重い口を開く。
「全裸で接客したんです。それも若い女性のお客さんの前で」