第1話

文字数 1,331文字

 にんにく(大蒜)は、ヒガンバナ科ネギ属の多年草である。
 その球根は強烈な香りと風味を持つことから、特に肉を食べる世界各地で肉の臭みを消す食材、香辛料として広く普及している。そして何より私たちは「にんにくパワー」と称して、その滋養強壮・スタミナ増進作用を信奉している。
 都会では、にんにくの入った食事を食べることには少なからず抵抗がある。何といっても人口密度が高く、人と人との距離が近いのだ。にんにくを食べようものなら、
 「ん~っ、にんにく臭せぇっ!」
と、すぐに指摘されてしまう。冗談にも
 「そうかなぁ…? はぁ~~~~」と息を吐きかけようものなら、その人との対人関係は終わる。

 一方、ここ山形県庄内ではにんにくに対する許容範囲が広い気がする。
 その理由は、まず土地が広い。人が少なく疎である。だから都会と比べて人と人との物理的な距離が遠い。伝わるにんにくの臭いが薄まるのだ。
 そしてもうひとつは、庄内の土地の大部分は農地である。だから庄内の人たちは基本的に土から収穫された農作物には尊敬と感謝の念を持っている。それ(ゆえ)取れた作物が、「臭いが強烈だから」はあまり問題ではないのだ。(←私の個人的な見解です。)

 だから私の行きつけの地元の居酒屋では、にんにくを大胆に使ったメニューに出会える。
 (写真1↓)は、「にんにくの丸あげ」¥380- である。

 実に分かりやすい。何も言わなければにんにくの調味料として味噌が付いてくる。私は味噌より断然、バターである。にんにくは肉の焼き具合の well done (ウェルダン)と同じように、少し長く揚げてもらう方が、にんにくがほくほくして美味しい。揚げたにんにくの球根の上に一塊のバターを乗せる。熱でバターが融ける。融けたバターが球根全体に染み渡った頃合いを見計らって、球根の小片をばらし皮を()いて食べる。ほくほくのにんにくにバターの味、まさに至極(しごく)の世界だ。美味(うま)い。さらに、ほんのひと摘まみの塩をかけると、にんにく塩バターになり、味の奥行きが広がる。
 これに合わせる酒は、角ハイボールがいい(写真2↓)。

 にんにくで火照(ほて)った胃に冷たいウイスキーが染みわたる。

 締めは「ガーリックバターピザ」¥480- である(写真3↓)。

 サラミソーセージの上にチーズが乗っている。一見、にんにくは見当たらない。(な~んだ、ピザの生地(きじ)にすりおろしたにんにくを染み込ませただけか?)と思った。が、よ~く見るとチーズの上ににんにくのスライスを粗い微塵切りにした小片が全面にびっしりと散りばめられている。一片を手に取ってがぶりとピザに食らいつく。
 んっ!!
 口の中で融けたチーズ、サラミソーセージ、そして小さなにんにくのスライスチップの味が広がった。にんにくの小スライス片にはピザを焼く際の熱は通っているが、シャキシャキとした生にんにくの食感が残っていた。タバスコも必要ない、それは強烈な刺激だった。

 新型コロナウイルス感染は下火になったとは言え、病院内では皆、不織布マスクを着用している。
 にんにくを食べた翌日の朝礼では、自分の話す声が、少しだけいつもより小さくなる気がする。マスクの中にこもる吐息が少し気になるから…(笑)

 んだの~。
(2024年6月)
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