中の巻
文字数 3,543文字
武士が俺に提案した計画はこうだった。
学校の弓道場にいる渡辺さんを武士が
そんな流れだった。
そんな計画が上手くいくはずはない。俺は反対した。
弓道場にいる渡辺さんを武士が
俺は反対した。
したことは、したが、本当のところを言うと、内心ちょっと、これで上手くいくならそれはそれで、仕方ないんじゃないか、運命なんじゃないか、俺と渡辺さんの恋のキューピッドさんが、この鎧武者ということなんじゃないか、と思った。
そして反対しようがしまいが、俺は武士にわっしと
麦茶がビールになるほど
武士は
部活の後も居残っていた生徒たちは、ぎゃあっと悲鳴をあげて
俺は死んだように見えたし、実際ほぼ死んだような気分だったし、武士の
弓道部の練習場に入るまで、俺と武士とを
いや、それも本当のことを言えば、何人かいたようだ。
ほぼ無抵抗状態の学校内を抜け、渡辺春奈姫の待つ弓道場へと、俺たちは
そこにいたのは渡辺さん一人ではなかった。
何人かの先輩男子がいたし、
渡辺さんもいた。練習用の
悲鳴の形にサクランボ色の小さな
いてえ! と思いながら、俺は渡辺さんの悲鳴を聞き、弓道場の床板に全身を
その場にいた皆は、俺が死んでるんだと思ったらしい。渡辺さんもそう思ったという。
次は誰が
あの
なぜ自分たちが殺されなければいけないのか。そんなような事が皆の頭を
不思議だ。それでも皆、武士に矢を射かけようとは、これっぽっちも思い付かなかったらしい。
弓道場にいて、たった今まで矢を
手には弓があり、弓道場には矢もあった。弓につがえたままの矢を持っている奴までいた。
それでも弓道部員・居残り組のできたことといえば、その場でパニくることだけだったのだ。
その大声を聞いて、弓道部・居残り組はますますパニックを深めた。
チビってるのかと思えるような奴もいた。誰とは言わない、部長の
その、しょんべん垂れ木下を除き、あと三人の先輩と
動けたのは、俺だけだった。
当たり前だ。俺は武士が本気じゃないことを知っていた。だから動けた。それだけの事だ。
武士は
俺はとっさに、しょんべん垂れ木下が取り落とした弓を
大体なんなんだ、この武士。なんでこんな奴が現代にいるんだ。
俺にも迷いはあった。武士とはいえ、たぶん人間と思うけど、そんな的を
当たったら一体どうなるんだ。どこを
でも武士の体に
俺は
そしてそれは、武士の背中から、心臓の裏側を
ように見えた。
芝居がかった
だって背後からって、どうすりゃよかったんだよ。前まで回り込んで行って射ろっていうのかよ。そんな
正直に言おう。俺も98%ぐらいはバニっていた。何だか訳がわからないうちに、矢を放ってたんだ。
武士はそんな俺を
矢が無い。矢が無い。と、俺はじたばたと
……いや、それも正直に言おう。俺は
本当に当たっちゃっていいの? これ芝居だろ?
当たっても、できるだけ当たり
なのに、それか、大当た~り~。
矢は深々と、武士の心臓を正面から射抜いた。
その瞬間、武士はにやりと笑って俺を見たような気がする。
その音と衝撃に
俺も少々、チビりそうだった。
しかし、チビってる場合ではない。
俺が声をかけると、渡辺さんは涙でうるうるした目をして、こくりと
そして半分、腰抜けてるのかなと思うような足取りで、よろよろと俺に
渡辺さんが俺に
いや、単によろけただけだったか。
いやいや、そうじゃない。渡辺さんが俺に
俺は渡辺さんを抱きかかえるようにして、皆といっしょに部室から逃げた。
扉をくぐる直前、振り返って見ると、武士は
まさか死んでないよな。
俺の体に震えが来たのは、実は、それからのことだった。