第3話 大英雄の不安

文字数 594文字

 常勝無敗のサラディンは此度の戦は万事上手く行くと予測していた。
 慢心ではない。
 経験がそもそも違うのだ。相手は精々見積もっても千程度の兵力。万の兵力を覆すなどあり得ないことである。加えて兵力を分散させ、各地の都市を包囲する。
 堅実なやり方だ。
 この地は乾燥気味で作物が豊かな訳ではない。ではどうするのか?
 兵站を断つのが常套手段である。各要都市を抑えこめばエルサレムにいる王達は食料の確保もままならない。兵の主力は遥か北側に位置し、その敵兵を抑止する為の兵も国境にしっかり揃えた。
 アッラーの御前にあまり褒めた手段ではないとも感じるが、全てが順調だった。海岸沿いの土地を抑えれば兵站を容易に断つことが出来る。要するに海上輸送の手段も断つのだ。そして今自軍が進軍している地帯はエルサレム王国にとって穀物地帯に当たる土地。
 若き王の命を無為に奪うのは善くないとも感じつつも王としてこの王国を奪還せねばならない。
 エルサレムはイスラム教の聖地である。大預言者ムハンマド縁りの土地である以上異教徒に渡す訳にも行かなかった。主要道路沿いにエルサレムに進軍する。

 しかし、何であろうか? あまりにもことが上手く運び過ぎている? まるで我々を誘導している気配さえある。

 一抹の不安を抱えながら進軍する。

 斥候からは何の報告もない。今回の戦は勝つ。そう確信して良い筈だ。

 しかし、何だ? この胸騒ぎは?
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