1、滑 落
文字数 1,141文字
クローン・キャスト、ケンジは、正面から猛吹雪を浴びながら、鉛のように重い足を深く積もった雪から引き抜いた。ソリを引く綱が肩に痛い。今、ケンジはお地蔵さんに変身中で身体の表面は石なのに、綱が身体に食い込むように感じられる。
「ぎゃっ!」
後ろで悲鳴が上がり、ソリの引き綱がケンジの身体をぐいと引っぱった。ケンジは両足を踏ん張って倒れそうになるのをこらえる。
「タイチ、大丈夫か?」
周囲を満たすゴウゴウという吹雪の音を縫って、アタルの声が聞こえてきた。
「どうした!」
ケンジは吹雪に負けまいと大声でアタルに尋ねる。
「タイチが足を踏み外して滑落しました」
そうか、それで、ソリがこんなに重くなったのか。うっ、身体を持っていかれそうだ。元々6人で運ぶように作られているソリを3人で引いている。3人でも無理があったのに、2人ではとても動かせない。
もしソリも滑落しはじめたら、俺とアタルも巻き添えになる。ソリを放すか? いや、そんなことをして、ソリがタイチの上にのしかかったら?
下方から、人の声が聞こえた気がした。ケンジはソリの重みに耐えながら、必死で耳を澄ます。
「ソリを放して! 俺は大丈夫です」
タイチの声だ。
「アタル、聞こえたか?」
ケンジはアタルに確認する。
「聞こえました」
と答えたアタルが、
「タイチ、本当に大丈夫か?」
と叫ぶように尋ねる。
「大丈夫だー! 早くしないと、ケンジ先輩とお前がソリと心中だ!」
今度は、タイチの声がはっきり聞こえた。
「よし、放すぞ。一、二、三」
ケンジはアタルとタイミングを合わせて引き綱を放した。急に肩が楽になり、雪の中を重いソリが滑落する鈍い音が聞こえてきた。
下方をのぞくと、吹きすさぶ雪嵐の向こうにちらちらと人影が見え、それが段々近づいてくる。タイチだ。タイチが変身を解いて、斜面を這い上ってくる。ケンジは変身を解いてタイチを助ける準備をした。
ケンジの足元の雪にタイチの手がかかった。ケンジはその手をつかんで、ひっぱる。タイチがようやく斜面を登り切った。
「先輩、すんません。俺のせいでソリをなくしちまって」
タイチが泣きそうな声で言う。
「ソリなんか、どうでもいい。お前が無事で良かった。元々、本当は6人でやるミッションを3人で強行したことに無理があったんだ」
「ケンジ先輩、どうしますか?」
アタルが変身を解きながら尋ねる。
「この吹雪の中を下手に動き回ると遭難する危険がある。雪洞を掘って避難し、天候の回復を待とう」
3人の身体は断熱機能を備えた変身補助スーツに覆われていたが、山の寒気はスーツの断熱機能を上回り、3人は震えながら深く積もった雪を両手でかいて穴を掘り始めた。
「ぎゃっ!」
後ろで悲鳴が上がり、ソリの引き綱がケンジの身体をぐいと引っぱった。ケンジは両足を踏ん張って倒れそうになるのをこらえる。
「タイチ、大丈夫か?」
周囲を満たすゴウゴウという吹雪の音を縫って、アタルの声が聞こえてきた。
「どうした!」
ケンジは吹雪に負けまいと大声でアタルに尋ねる。
「タイチが足を踏み外して滑落しました」
そうか、それで、ソリがこんなに重くなったのか。うっ、身体を持っていかれそうだ。元々6人で運ぶように作られているソリを3人で引いている。3人でも無理があったのに、2人ではとても動かせない。
もしソリも滑落しはじめたら、俺とアタルも巻き添えになる。ソリを放すか? いや、そんなことをして、ソリがタイチの上にのしかかったら?
下方から、人の声が聞こえた気がした。ケンジはソリの重みに耐えながら、必死で耳を澄ます。
「ソリを放して! 俺は大丈夫です」
タイチの声だ。
「アタル、聞こえたか?」
ケンジはアタルに確認する。
「聞こえました」
と答えたアタルが、
「タイチ、本当に大丈夫か?」
と叫ぶように尋ねる。
「大丈夫だー! 早くしないと、ケンジ先輩とお前がソリと心中だ!」
今度は、タイチの声がはっきり聞こえた。
「よし、放すぞ。一、二、三」
ケンジはアタルとタイミングを合わせて引き綱を放した。急に肩が楽になり、雪の中を重いソリが滑落する鈍い音が聞こえてきた。
下方をのぞくと、吹きすさぶ雪嵐の向こうにちらちらと人影が見え、それが段々近づいてくる。タイチだ。タイチが変身を解いて、斜面を這い上ってくる。ケンジは変身を解いてタイチを助ける準備をした。
ケンジの足元の雪にタイチの手がかかった。ケンジはその手をつかんで、ひっぱる。タイチがようやく斜面を登り切った。
「先輩、すんません。俺のせいでソリをなくしちまって」
タイチが泣きそうな声で言う。
「ソリなんか、どうでもいい。お前が無事で良かった。元々、本当は6人でやるミッションを3人で強行したことに無理があったんだ」
「ケンジ先輩、どうしますか?」
アタルが変身を解きながら尋ねる。
「この吹雪の中を下手に動き回ると遭難する危険がある。雪洞を掘って避難し、天候の回復を待とう」
3人の身体は断熱機能を備えた変身補助スーツに覆われていたが、山の寒気はスーツの断熱機能を上回り、3人は震えながら深く積もった雪を両手でかいて穴を掘り始めた。