4、元日の朝

文字数 981文字

 吹雪の一夜が明けた。透き通るように澄み渡った冬の青空が現れ、雪面をキラキラ輝かせた。一夜をしのいだ雪洞から出てきたケンジたちは、新雪を踏みしめて斜面に近づいた。ソリは意外にも、すぐ近くにあった。尾根道から下ること10メートルばかりのところで、大きな岩にあたって止まっている。
「荷崩れしてないな」
ケンジがつぶやくと、アタルが
「奇跡ですね」
 と言う。
 タイチが
「本当に、良かった」
 と胸をなでおろしたが、すぐに
「でも、もうお爺さんにお届けはできません。『笠地蔵』では、大晦日の夜更けに届けるのですから」
 と、落胆した声を出した。
「どうかな?」
 と、ケンジはつぶやいた。


 元旦の朝、表に
「爺さんの家はどこだ。婆さんの家はどこだ」
 と、お経を読むような声が聞こえだした時、お爺さんはまだ寝床にいた。いつもは早起きのお爺さんだが、元日だけはのんびり朝寝をすることにしている。

「お爺さん、あの声はなんじゃろう?」
連れ合いのお婆さんは、もう起き出して不安そうに戸口に立っている。
「いや、なんじゃろう?」
お爺さんも起き出し、戸の心張り棒の丸太を手に取る。お婆さんがゆっくり戸を開ける。

 雪面の輝きにお爺さんは目をしばたたく。涙でかすんだ目に映った光景に、お爺さんは驚いた。
 なんと、頭に編笠をかぶった6体のお地蔵さんが横一列に並んでいるではないか。そして、お地蔵さんたちの前には、大きなソリがひとつ。
「些少ながら、笠の御礼でございます」
一体のお地蔵さんが言った。表情のないはずのお地蔵さんが微笑んだように見えた。そして、お地蔵さんたちは、ソリを残して、ふもとの方向へ歩き去っていった。
 
 お爺さんは、あっけに取られてお地蔵さんたちを見送った。少し経って、お爺さんは
「わしは、夢をみておったんじゃろうか?」
 とお婆さんに尋ねた。
「お爺さん、わたしも見ましたよ。編み笠をかぶったお地蔵さんが六体、わたしにニコニコ笑いかけてくださいました」
 これは不思議なことがあるものだとお爺さんがソリの積み荷をほどいてみると、餅や海老など正月のご馳走が現れた。それだけではない。金、銀、赤・青・緑の玉など、宝物が詰まっている。
「これは、お地蔵様、ありがたいことで」
お爺さんとお婆さんは両手を合わせて宝物を拝むのだった。

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