最終話

文字数 1,164文字

「明日学校に行ったら『うわーん。だまされて天気料金払っちゃったよお』ってクラスじゅう大騒ぎになってたら、ぼくどうすればいいの?」
ぼくが焦るとちくわは、ふんと言って
「信用ないねんなあ、しょういちは」
と言った。

・・・って、うそつきになったのって誰のせいだよ?
「ふだんから信用あったら、みんな信じてくれるはずやろ?しょういちはともだちの意見でふーらふーらするところがあかんねん。おまえはもっと自分に自信を持て。『オレはこう思う!』って感じで、でーんとかまえとかんかいっ。もうすぐ2年生になるんやろ、そんなことやと新しい小1になめられるで」
これって、ぼくをはげましてくれてる?

「そんなことより、はよ飯にしてくれい。はらぺこや」
 ちくわは、でーん、とぼくのベッドの上で寝転がった。
いや・・・はげましてるわけではなさそうだ。なんだか叱られている気がするなあと思いながらちくわ専用の器に乾いたドッグフードをざらざらと入れた。

 確かにちくわの言う通り、
ともだちみんなのキゲンをとって気に入られて、ちやほやされたい。
とかちょっとだけ思ってたから、なんかどきっとした。
「ごはんには、ゆでたささみはかならずトッピングしてや。それ基本な」
ちくわはごろごろしながら命令した。

 次の朝、学校へ行ったら、ぼくはヒーローになっていた。
みんなのうちのインタホンもピンポンと鳴って、あの男が来た。
すると犬や猫や鳥やハムスターやかぶとむしや金魚・・・
ともだちが飼っているペットというペットが騒ぎ出して
びっくりした男は逃げてしまったらしい。

 小学校の前にある交番のおまわりさんに聞いたら
「昨日の夕方、捕まったよ」と言ってた。
クラスのともだちは
「おまえの電話をウソだとか言ってごめんな。すごいよなーおまえんとこのチワワって。本当にしゃべるんだ」
みんなはぼくに謝ったり、ちくわを褒めたり忙しかった。
まあ、つまり正確には、
クラスのヒーローはぼくじゃなくてちくわだけどね。

 早く家に帰って、ちくわにこの話を聞かせてやりたかった。生意気なちくわが、ますます偉そうにするかもしれないけど。

ぼくは放課後、ランドセルをぴょんぴょん揺らしながら走って、
玄関で靴を右へ左へいきおいよく飛ばすと部屋に行き、
興奮した早口でちくわに今日のことを伝えた。

でも、ちくわはかわいらしい瞳でぼくをみあげ、
しっぽをぷるぷる振っただけだった。

え?

「ちくわがさ、クラスみんなのペットたちに伝えたんでしょ?すごいなあ、ヒーロー犬だぜって、大騒ぎだったよぉ」
と、さらに話を続けたけど、
ちくわは
わん、と鳴いただけだ。
以前と同じ、普通のチワワだった。

いまもちくわは、わん、としか言わない。
「いまいち気分がのらんからな」
という理由なのかどうか知らないけど。
とりあえず、
ちくわのごはんに、ゆでたささみは入れている。
おわり
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