第3話 復讐は続く・・
文字数 1,755文字
復讐を決めた4ヶ月後、全ての準備が整った事を確認した松田は、親友の藤谷に電話した。藤谷は持ち前の陽気さで、電話に応えた。
「よう、どうだ仕事は?中小庁はきついだろ〜。」
藤谷は同じ東京大学卒、松田と同期入社で農林水産省入省、松田より2ヶ月先に中小企業庁の別の部署に配属されていた。社交的な性格で、農業関連の日本企業を世界へ羽ばたかせるのだという入社以来の野望を持ち続けている熱い男であり、松田とは性格が全く違ったが、折に触れ松田に話しかけてくる藤谷の熱い性格に、松田も惹かれ、二人は親友の様な間柄になっていた。
「下手な転職よりきついと思うよ、経産省エリートのお兄様方にたっぷり可愛がられてるよ。」
「いやいや、うまくやってるみたいじゃん、人事院から来てる松田は仕事ぶりが落ち着いていて課でも評判が良いそうだ、って上が話してたよ。人事院の出世する同期は大事にしとけとも言われたよ。」
「そうは思えない扱われぶりだけどな・・まあいいや、実は折り入って頼みがある。」
「なんだよ珍しい。」
松田は、今までの経緯と計画を藤谷に話した。
「なるほどな、松田が怒ってるの初めて見たよ・・しかし復讐の仕方がお前らしいけど、ある意味恐ろしいな。」
藤谷は少し驚いた様な声で言った。
「我ながら健全だと思わないけど、犯罪めいた復讐もできないからな・・」
次の日、計画通り、昼前に藤谷が松田のデスクに来て、少し大きな声で言った。
「おい松田、すごいじゃないか。フランス語検定2級とDELF取ったんだろ?勉強始めて、たった4ヶ月でフランス駐在の基準レベルクリアしたんだって?」
その声で野田をはじめとする課内の何人かが一斉に顔を向けた。いずれも野田と仲の良い課員であった。
松田は彼らを見て、野田がフランス語の悩みを話していたメンバーに違いないと思った。
「いや、恥ずかしいよ。普通に勉強してたら2級なんて落ちる人いないんだから。あとフランス駐在の基準も低すぎるから、あれは基準じゃなくて、望めば誰でも行ける様にしてあるんだよ、フランス行ってから本格的に勉強できるだろうし。俺なんて第二外国語すら取ってないし、フランス語で読みたい本があったから趣味で勉強してるだけだし。」
「趣味かよ・・そうは言っても仕事しながらすごいよ。時間も長くは取れないし。」
「一日机で1時間、あとは休み時間と通勤時間さえあれば楽勝だって。仕事が忙しくてこれくらいの資格取れなかったら、一生何も成し遂げられないだろ。」
藤谷は完全に引きつった笑いをしていた。
「はは、すごい余裕だな・・まあ、引き続きがんばれよ。」
「おう、ありがとう。何だよ、そんなこと言いに来たのかよ。」
課員は全員、野田をチラチラと見ていた。野田は何事もなかったの様にパソコンに向かっていた。
松田の復讐は達成された。平静を装っている野田を見た松田は、これこそが俺の復讐だと思った。復讐するごとに自分が成長していく、何とも素晴らしい復讐じゃないか。人を許せないと思う気持ちは良くないが、我慢する事はない。こういう復讐なら悪くない、とこの時から思うようになった。
それから7年後、松田がパソコンを見ていた日曜の午後、情報セキュリティスペシャリストの合格発表のWEBページを見ていた。
午前1得点・・76.00点、午前2得点・・84.00点・・
「情報セキュリティスペシャリストも合格か・・」
松田は合格結果を自分のSNSへ投稿した。
「ICT社会に適用するために情報セキュリティスペシャリストを受験し、合格しました。勉強の仕方さえ間違えなければまず不合格にはなりません。専門職的なイメージがありますが、基礎の基礎だけ抑えれば問題ありません。IT業界に関心があれば誰でも受かりますよ。」
休日の午後の時間だけあって「いいね」やコメントが一気に増えた。松田は誰が「いいね」をしているか念入りに確認した。
(中井、尾村、草田・・よし、間違いないな。)
今回の復讐のターゲットと仲の良い人物達である。この話がどう伝わるか、楽しみだ。松田は復讐を達成した爽快感と、また一つ自分が成長した事にこの上ない喜びを感じていた。
「よう、どうだ仕事は?中小庁はきついだろ〜。」
藤谷は同じ東京大学卒、松田と同期入社で農林水産省入省、松田より2ヶ月先に中小企業庁の別の部署に配属されていた。社交的な性格で、農業関連の日本企業を世界へ羽ばたかせるのだという入社以来の野望を持ち続けている熱い男であり、松田とは性格が全く違ったが、折に触れ松田に話しかけてくる藤谷の熱い性格に、松田も惹かれ、二人は親友の様な間柄になっていた。
「下手な転職よりきついと思うよ、経産省エリートのお兄様方にたっぷり可愛がられてるよ。」
「いやいや、うまくやってるみたいじゃん、人事院から来てる松田は仕事ぶりが落ち着いていて課でも評判が良いそうだ、って上が話してたよ。人事院の出世する同期は大事にしとけとも言われたよ。」
「そうは思えない扱われぶりだけどな・・まあいいや、実は折り入って頼みがある。」
「なんだよ珍しい。」
松田は、今までの経緯と計画を藤谷に話した。
「なるほどな、松田が怒ってるの初めて見たよ・・しかし復讐の仕方がお前らしいけど、ある意味恐ろしいな。」
藤谷は少し驚いた様な声で言った。
「我ながら健全だと思わないけど、犯罪めいた復讐もできないからな・・」
次の日、計画通り、昼前に藤谷が松田のデスクに来て、少し大きな声で言った。
「おい松田、すごいじゃないか。フランス語検定2級とDELF取ったんだろ?勉強始めて、たった4ヶ月でフランス駐在の基準レベルクリアしたんだって?」
その声で野田をはじめとする課内の何人かが一斉に顔を向けた。いずれも野田と仲の良い課員であった。
松田は彼らを見て、野田がフランス語の悩みを話していたメンバーに違いないと思った。
「いや、恥ずかしいよ。普通に勉強してたら2級なんて落ちる人いないんだから。あとフランス駐在の基準も低すぎるから、あれは基準じゃなくて、望めば誰でも行ける様にしてあるんだよ、フランス行ってから本格的に勉強できるだろうし。俺なんて第二外国語すら取ってないし、フランス語で読みたい本があったから趣味で勉強してるだけだし。」
「趣味かよ・・そうは言っても仕事しながらすごいよ。時間も長くは取れないし。」
「一日机で1時間、あとは休み時間と通勤時間さえあれば楽勝だって。仕事が忙しくてこれくらいの資格取れなかったら、一生何も成し遂げられないだろ。」
藤谷は完全に引きつった笑いをしていた。
「はは、すごい余裕だな・・まあ、引き続きがんばれよ。」
「おう、ありがとう。何だよ、そんなこと言いに来たのかよ。」
課員は全員、野田をチラチラと見ていた。野田は何事もなかったの様にパソコンに向かっていた。
松田の復讐は達成された。平静を装っている野田を見た松田は、これこそが俺の復讐だと思った。復讐するごとに自分が成長していく、何とも素晴らしい復讐じゃないか。人を許せないと思う気持ちは良くないが、我慢する事はない。こういう復讐なら悪くない、とこの時から思うようになった。
それから7年後、松田がパソコンを見ていた日曜の午後、情報セキュリティスペシャリストの合格発表のWEBページを見ていた。
午前1得点・・76.00点、午前2得点・・84.00点・・
「情報セキュリティスペシャリストも合格か・・」
松田は合格結果を自分のSNSへ投稿した。
「ICT社会に適用するために情報セキュリティスペシャリストを受験し、合格しました。勉強の仕方さえ間違えなければまず不合格にはなりません。専門職的なイメージがありますが、基礎の基礎だけ抑えれば問題ありません。IT業界に関心があれば誰でも受かりますよ。」
休日の午後の時間だけあって「いいね」やコメントが一気に増えた。松田は誰が「いいね」をしているか念入りに確認した。
(中井、尾村、草田・・よし、間違いないな。)
今回の復讐のターゲットと仲の良い人物達である。この話がどう伝わるか、楽しみだ。松田は復讐を達成した爽快感と、また一つ自分が成長した事にこの上ない喜びを感じていた。