第1話

文字数 1,207文字

家庭

家庭という言葉には なぜ 
庭という語がついているのか
どこの家にも庭があるわけではないし
ましてや  マンションには庭などないし

この場合 「庭」が
意味しているものは何なのだろう
庭はふつう土で出来ている
ただ 一緒に住んでいる場所という
意味ではなく 同じ土に根を下ろして
日々ともに生きて行くところ
という意味なのだろうか
そこで ともに 成長し ともに 喜び悲しみ
ともに 老いるそんな場所のことなのか

今の家族にそんな「庭」があるだろうか
日本の家庭からいつの間にか
「庭」がなくなってしまったような気がする
ただの寂しいコンクリートの空洞が
暗いほら穴のように転がっている
どこにも土の匂いがなく 根のつながりもない
荒涼たる家族の風景がそこにあるだけ

孤独死した身寄りのない人たちの遺体が
今 葬儀場の冷蔵庫に溢れているという
そうした遺体の面倒を見ることは
市役所の仕事であるらしく 都市部では
あまりにもそんなことが多いからか 最近
すぐ近くに兄弟が住んでいるにも拘わらず
よく確認しないままに火葬して問題になった
それだけ都市部では そんな遺体の数が多くて
市役所の人はそんな仕事に追われているということだ
そして 遺骨になった後に親族が見つかっても
引き取りを拒否されることが多いという
そんな遺骨が市役所の倉庫に溢れているという

どうして こんなことになったのだろう
「家庭」はどこへ消えてしまったのだろう
どこで 私たちは道を誤ったのか
少子高齢化が世界のどこよりも急激に進む
この国で起きているこの現象は何を意味するのか

私たちの社会は いったい 
どこへ 向かっているのだろう
世界はますます 荒涼となる一方だ
不毛な砂漠がどんどん虚無のように広がるように


ファンレターさまの紹介

 家は豊かな土壌の上に

今まで「家庭」という言葉の意味をよく考えたことがありませんでした。今日、この作品を読ませて頂きハッとしました。家だけではただの物質に過ぎず、そこに息づく家族の温もりや思いがないのだと思います。そして家に人が住むだけではまだ家庭とは呼べないのでしょう。豊かな土壌に根を下ろし、互いを慈しみ支え合ってこそ初めて家庭になるのだと思いました。今の日本は個人主義を好む人達が多いような気がします。個人主義というと聞こえは良いのですが、地域社会にも家族にも関わるのが煩わしい、面倒なことは背負いたくないという自己中心的な考えの人が多いのでしょう。ハワイでは「オハナ」という言葉があることを思い出しました。みんなが一つの大きな家族と言うような意味だそうです。人は一人で生きている訳ではありません。地域のコミュニティの中での自分の役割、職場での役割、家族内での役割をそれぞれが担って行かないと世の中はうまく回らないのだと思いました。自分の庭だけ手入れしてもすぐに荒れ果ててしまいます。お互いさまの気持ちを忘れず、みんなで豊かな庭を作り上げて行かなくてはならないと思いました。

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